目次
- 日本のファッションに大きな影響与えた「景気の波」
- バブル景気突入前夜の『Hot-Dog PRESS』
- ヒップホップ黎明期の“若き実力者達”
- “牛を一頭送りつけてやった”秋元康
- “ひとりよがりのコーディネイトはもうしたくない”
- 黒のMA-1とバッファロースタイル
- フォーマルアイテムでドレスアップが80年代の特徴
- “ツイードの帽子は、一回にぎりつぶしてからかぶる”
- “オシャレの天才・藤原ヒロシくんのスタイリング”
- 音楽プロデューサー藤原ヒロシとアイドル小泉今日子の関係
- 小泉今日子が「オシャレ」な理由
- ジーンズ×テーラードジャケットのドレッシーなバブル期スタイル
- “米・仏・英・伊ニュージーンズ大旋風”
- ヒップ・ホップ・ファッションは黒人たちのチープ・シック・ファッション
- ロシアンファッションの火付け役はゴルバチョフ書記長夫人
- “オール古着なんてヤだもんね”
- バブル突入前夜のリアルなコーディネイト
日本のファッションに大きな影響与えた「景気の波」
以前の記事で公開した、年表「日本の政治経済とメンズファッションの歴史」。
今回の記事のために少しだけバージョンアップして、バブル景気などの好景気の時期をわかりやすくしてみました。
まだまだ分析が足りていませんが、景気の良し悪しはこれまでファッションに大きな影響を及ぼしてきたと感じています。
戦後何度か訪れた大きな好景気のなかでも、1986年12月から1991年2月に訪れたとされるバブル景気は日本のファッションに最も大きな影響を与えた、というのが僕の持論です。
バブル景気の頃のファッションは見ていてとても楽しいので、これまでの“ファッションアーカイブ”で何度もご紹介してきました。
バブル景気突入前夜の『Hot-Dog PRESS』
そして、今回ご紹介するのはそんなバブル景気突入前夜と言える、『Hot-Dog PRESS』1986年11月25日号です。表紙のスタイリングにはディズニーキャラクターのバッジが付けられています。
上掲の年表にも記載していますが、東京ディズニーランドが開業したのが1983年。
https://www.pinterest.jp/pin/552042866837858133/
実はこの1986年に当時小学1年生だった僕も、神戸から家族で東京ディズニーランドに遊びに行きました。
表紙裏。全編を通じて広告はオーディオが多め。
“HDP'S VIEW”という、巻頭のミニニュースページ。最初はロン・レゼックというミニマルな雰囲気のアメリカの家具デザイナーについて。
1990年代終盤の『Hot-Dog PRESS』をリアルタイムで読んでいた僕的には、『Hot-Dog PRESS』はかなりカジュアル、悪い言い方をすれば低俗な印象があったのですが、この頃は映画や音楽などを高尚な雰囲気で紹介しています。
ヒップホップ黎明期の“若き実力者達”
右ページ、“ヒップ・ホップセカンドゼネレーション”を執筆しているのは、ミュージシャンの近田春夫さん。
“ヒット・チャートをも席巻するヒップ・ホップの若き実力者達”の筆頭に挙げられているのが、“アルバム『レイジング・ヘル』も大好評のRUN D.M.C”。
1986年当時、日本においてまだまだヒップホップは新しい音楽でした。
近田春夫さんは“ヒップホップはこれからどうなって行くにせよ絶対にすべての音楽を越えてまったく今までと違う価値観を人類に提示することだろう”“ただハッキリ云って、もう(いわゆる)ロックはださいのだ。あんなモノ聴いてるんだったら死んだ方がマシ”と、この頃相当ヒップホップに熱中していたようです。
RUN D.M.Cと共に紹介されているのが、L.L.COOL Jのアルバム『レイディオ』。
“ヒップホップには珍しい白人3人組のビースティ・ボーイズ”のデビューアルバム、『ライセンス・トゥ・イル』
今やヒップホップの大御所となっている3組が、まだデビュー前後の超若手。
1986年がヒップホップ黎明期だったことがよくわかります。
“牛を一頭送りつけてやった”秋元康
『Hot-Dog PRESS』の名物、作家北方謙三さんの連載「試みの地平線」。
そして、当時はなんと秋元康さんも連載をしていました。「ペーパーノイズ」と題された日記です。当時から放送作家から作詞家など幅広く活動していた秋元康さん。“国生さゆり”“原田知世”“研ナオコ”など、芸能人の名前も多数登場しています。“貧乏くさいことを言う”事務所スタッフの実家に“牛を一頭”“送りつけてやった”というバブル全盛期ならではのエピソードも。
“ひとりよがりのコーディネイトはもうしたくない”
ここからが今号の特集、“最新コーディネイト完全マニュアル 冬の流行、こう着こなす!”。
特集で紹介されている着こなしを見てみると、今も参考になりそうだったり、逆に全くもって別次元のようなファッションだったりと、かなり面白い内容だったので、今回は着こなしに焦点を絞ってご紹介していきます。
“流行コーディネイト上手のための5つの誓い”。なにも誓わなくても、と思いますが笑。“僕たちはひとりよがりのコーディネイトはもうしたくない”の内容が結構興味深いです。
“自分だけがイカすなんて思いこんでいるだけで、彼女も友達もほめてくれない。本人が楽しんでればほんとうはそれでいいんだけど、でも、やっぱり少しは悲しい”
“自分の感覚と彼女や友達の感覚とのバランスを知っておいかなきゃいけないんだね”
という文章には「確かに」と思わされました。
“この冬のテーマ・カラー赤の着こなし大研究”。スタイリングに使われいる服は、タケオ・キクチ、チューブ、イサム・メンなどの日本のDCブランド、そしてポール・スミスなど。
DCブランドブームの頃はジャケットにシャツという、フォーマル度が高めのコーディネイトが主流なので、カジュアルがメインの2023年現在の感覚からはちょっと遠いかもしれません。
ちらりと見えるタートルネックと靴下の色を揃えるスタイリング。洒落てますね。
黒のMA-1とバッファロースタイル
“冬の基本アイテム「これはこう着る!」”という、アイテムを軸にしたコーディネイト提案。
最初は“今爆発的に売れている”MA-1。中でも“今年に入って黒が売りだされ、今もヒット中なのがこの“黒のMA-1”。夏も終わらないうちから売れ始め、売り切れ店が続出だとか”とあります。
そして、提案しているのが“ここはひとつTシャツとジーンズ・コーディネイトを脱けだして、フランスっぽく、黒をベースに、帽子や小物で演出してみよう”というスタイリング。
ですが、このスタイリングは1986年頃に人気だったイギリス発祥のファッション、バッファロースタイルの影響が強いように思えます。
https://www.pinterest.jp/pin/237494580347320433/
https://www.pinterest.jp/pin/646548090272936474/
書籍「WHAT'S NEXT? TOKYO CULTURE STORY」では、1986年のトレンドとしてバッファロースタイルが紹介されています。
WHAT'S NEXT? TOKYO CULTURE STORY(Amazon)
バッファロースタイルについての説明文を引用します。
"KILLER" と描かれたグラフィックが印象的なハットやスコットランドの民族衣装であるキルトに、MA-1 やハードなブーツを合わせたコーディネイト。シックでありながらも軽妙さを感じさせる着こなしは、モードファッションと機能・ミリタリー・スポーツといったキーワードの融合を連想させる。いまでこそあたり前になった“モード×スポーツ”のかけ算だが、当時それを提案していたのがロンドンで活躍していたスタイリスト、レイ・ペトリである。スタイル名にある "バッファロー”とは、彼が中心となって構成されていたクリエイティブ集団のこと。UKのストリート誌が輸入され、日本のシーンにも影響を与えたのだ。この他にもボクシングパンツやジャージを取り入れた着こなしを当時から発表していた。
そして、バッファロースタイルのキーアイテムとしてMA-1もこう紹介されています。
ミリタリーアイテムの王様といっても過言ではないMA-1。特に黒は人気を集めた。様々なテイストをコーディネイトに取り入れるのが、バッファロースタイルのセオリーだ。
そして、『Hot-Dog PRESS』が提案するコーディネイトにも、黒のブーツやタータンチェック柄など、バッファロースタイルに通ずるアイテムが散見されます。
フォーマルアイテムでドレスアップが80年代の特徴
次は“Wジャケットはジージャンとレイヤードでフランス風に”という、なんともアヴァンギャルドな提案。
とはいえ、ジャケットは“素材は上質なメルトンウール”なので、コート的な着方だと思われます。
Gジャンに合わせているパンツは千鳥格子。千鳥格子、最近ではなかなか見かけることがなくなった柄です。
“縦縞ジャケットはリボンタイでスクール・ボーイ風に”
“ニーロン・パンツはバルキーニットでよりスリムに見せる”
ストライプ柄のテーラードジャケットも、近年は見なくなったアイテムだと思います。フォーマルなアイテムでドレスアップするのが、80年代のメンズファッションの特徴と言えるでしょう。
“ニーロン、これは仏語。英訳すればナイロン。つまり、ナイロン・パンツのこと”だそうです。ケーブル編みのニットに黒のテーパードパンツ、レザーシューズというコーディネイトは格好良いですね。
“タートル・ニットは帽子でアクセントをよりトップめに”。
タートルネックニットはアニエス・ベーのもの。ベレー帽を合わせるのは、かなりハードルが高そうに思えます。
こちらはタートルネックニットの上からシャツを2枚羽織るスタイリング。
右ページ、三菱電機のビデオデッキはマドンナに目を取られてしまいがちですが、VHSでもベータでもなく、なんとHi-Fi。そう言えば80年代終盤に我が家で使っていたビデオカメラもHi-Fiだったことを思い出しました。
“黒のダッフルコートはインナーをカラフルにして楽しく”。このコーディネイトも格好良いです。
インナーの派手なワッペン付きトレーナーは、今も原宿に店を構えるパンクショップ、ア・ストア・ロボットのもの。
ア・ストア・ロボットが日本のファッションに与えた影響は少なくありません。いつか、“ファッションアーカイブ”で掘り下げてご紹介できたらと思っています。www.musicman.co.jp
このページから、グッズ類になります。
“チロリアン靴は、タータンやアーガイルでエスニックぽく”。
ボリュームのあるチロリアンシューズに、タータンチェック柄のマフラー、真っ白のヘアバンド。こちらも、今真似しても良さそうなコーディネイトです。
“エナメルやファーの靴は、パンツのすそをしぼって履く”。
かなりドレッシーなシューズ。
エナメル素材のレースアップブーツという、かなりインパクトのあるアイテム。
“アザラシの毛皮が全体をおおっているファーの靴”はメンズ・ビギのもの。
“エナメルとハ虫類のコンビ”なんていう、かなり迫力のあるシューズもピックアップされています。
“ツイードの帽子は、一回にぎりつぶしてからかぶる”
“もう、街中にあふれているから、いまさらいうのも気がひけるけど、とにかく今年の頭は帽子できめるのが常識”ということで、1986年当時は帽子人気が非常に高かったようです。
そして、提案する着こなしは“ツイードの帽子は、一回にぎりつぶしてからかぶる”。“使いふるしたように見えるとカッコいい”からだそうです。
右下のキャップは、グッチのブートもの。取り扱いは原宿の古着屋、デプト・ストアで、2,800円。
右ページ、缶コーヒーの広告はマラドーナ。缶のデザインが洒落てます。
“ウエスタン調ベルトは、ループを通さず締める”。
かなりネイティブ・アメリカン調を中心に、個性の強いデザインのベルトが並んでいますが、上掲のア・ストア・ロボットやハリウッドランチマーケット、そしてメンズ・ビギなどがこういうベルトを扱っていました。
“合わせる色に悩んだ時は、黒を選べば間違いない”
次は一転して、“誰でもできる実用配色テクニック”。
“合わせる色に悩んだ時は、黒を選べば間違いない”。1980年代はヨウジヤマモト、コムデギャルソンの「黒の衝撃」が牽引したカラス族がブームになり、黒が一気にファッションの色として浸透しました。
“流行のアース・カラーは青と合わせればひきしまる”。
“派手すぎ渋すぎはトーン差を利用して解決する”。
お次は柄。
“千鳥格子は柄の大きさで着こなし方を変えるのが正解”。
かなり多数の千鳥格子アイテムが集められています。
いかに当時が千鳥格子の人気が高かったのかがわかります。
“オシャレの天才・藤原ヒロシくんのスタイリング”
次は今号の僕的No.1ページ。
“KYON2から学ぶ3つの着こなし”。『小泉記念鑑』という“高級写真本”に掲載されている写真をピックアップして編集した、プロモーション的なページです。
スタイリングに名を連ねているのは、あの藤原ヒロシ。