90年代のファッション誌を中心に、昔のファッション誌のアーカイブを兼ねてご紹介する企画、ファッションアーカイブ。
これまでの記事はこちらから。
今回も引き続きPOPEYE 1987年9月16日号のご紹介です。
80年代のファッショントレンドの流れ
これまでもご紹介していますが、80年代の日本のファッショントレンドの流れをざっくりとご紹介します。
1981年にコムデギャルソンとヨウジヤマモトがパリコレクションデビューし、カラス族と呼ばれる全身黒ずくめファッションが登場。
https://www.pinterest.jp/pin/350717889708494500/
その後、DCブランドブームが到来。DCとはデザイナーズ、キャラクターズの略で、マンションメーカーと呼ばれる原宿のワンルームマンションを拠点とした、若手デザイナーによる小規模ながら革新的なブランドが人気を集めます。
そんな80年代のDCブランドのアーカイブが手軽に読めるのが、以前当ブログでもご紹介した「'80sガールズファッションブック」です。
|
全身真っ黒でストイックな雰囲気だったカラス族が発端となったDCブランドブームでしたが、1985〜86年のDCブランドブーム後期になると、多彩な色、柄が使われたポップな雰囲気に。
また、前期は前衛的かつ洗練されていたシルエットも、後期になるとルーズでゆったりシルエットに変化していました。
こういった流れの後、登場したのがエフデジェです。
エフデジェとはファッション用語で、ざっくりと言えば、上品なフレンチカジュアルという感じ。
『FDGE』(エフデジェ)とは、フランス語のFutur Directeur Generalの頭文字からなる造語です。
いわば、将来を約束された上流階級という意味合いのことです。特にこの階級の子弟を指します。
言い換えればフランス版「プレッピー」のようなものですわ。
【ファッション用語解説】’87年日本の情報雑誌ポパイが提唱した。 フランス語 将来を約束された階級という意味の略語。 上品でベーシックな装いをいう。
知性と洒落っ気がバランスよく配された文化生活
右ページはティンバーランド広告。
”本格的なヘビーデューティー・シューズ”と、品質をアピール。
そして左ページはまだ続く、エフデジェ特集。
エフデジェ=山の手的という表現。
こちらは服ではなく、インテリアでのエフデジェ。
”本棚というのは、その人の文化的背景のあらましである。これを他人の目にさらすのは、裸を見せるのも同然。が、ありがちな事態ではある。意識するあまり、洋書、哲学書だらけの本並べは友達をなくすのがオチ。そこらへんはさり気なく、知性と洒落っ気がバランスよく配された文化生活を垣間見せるものなのだ。”
この、「知性と洒落っ気がバランスよく配された文化生活」という一節は、エフデジェのキーワードのような気がします。
また、”文学ってのは、人生の痛みなわけで、傷つきやすいシリアスな青春だったりもしてテレ臭い。寺田寅彦、中原中也あたり、知性の深みは奥ゆかしく、目立たない最上段に隠したい”という一文には、ファッション誌とは思えない文学性を感じますね。
”空間にも、知性が詰まっているらしいよ”というコピーに、エフデジェは表面的な服装だけでなく、内面的な要素も必要だということが伝わってきます。
”知っておきべし、見ておくべし、の視覚芸術書”に挙げられているのは、古代遺跡やティディベアの写真集、レオナルド・ダ・ヴィンチのデッサン集などなど。
”山の手少年は、情緒も感性も健やかに育ってしまっているため、安直なオーディオ装置ではガマンできない。かといって、高価なコンポに空間を占拠させるほどのマニアでもない”と、育ちの良さをオーディオでアピール。
で、”文化の器”と称される本棚はイタリアのデザイナーズで48万円也。車買えるやん。
次は”愛と勇気と美意識を備えた男の旅支度”。
”旅がドラマなら、当然、主人公は旅行者なわけで、ヒーローたるものやはりファッションには気を遣う”と、こちらもなかなかの名文。で、挙げられているのがシェトランドニットやLLBeanのバンダナなど。
履物関連の持ち物が凄いです。デッキシューズに室内履き。そしてブラシを計5つににシュークリームも沢山。育ちの良さをアピールするのも大変です。
”愛用したスポーツグッズが履歴書となるのだ”
”FDGスポーツ少年はおしゃれでなくてはつとまらぬ。流行りの種目はひととおり熱中し、用具やウェアにも当然こだわる”と、多彩なスポーツアイテムが並べられています。
スケボー、フリスビー、バスケットボール、サッカー、テニスなど色々。
”そして今、夢中なのはバイク”ということで、イタリアの老舗ブランド、DE ROSAのロードバイクは50万円也。
そして、”FDGの「週末は草上の食卓でなごむ”と、まさに上流階級なハイキングセット。
慶應大生がエフデジェの象徴的存在
”こだわり精神が、最も露骨に、正直に表われるのはやっぱりファッションよりもモノである”と、ファッション誌とは思えないモノ重視宣言笑。
”FDG趣味とはいったいどんなテイストか?FDG的アイテムとは!?今、最も山の手的とモクされる、某KO大生をモデルに、その、こだわりズムの極意を解明すべく徹底研究”ろいうことで、慶應大生がエフデジェの象徴的存在だったようです。
”やっぱり、メイジャーすぎる一流品というのは避けてですね、まあ時計ならロレックスをハズして、シンプルなジャガールクルトのリバーソ(65万円)を”だそうで。
楽天市場で調べてみると、ユーズドが見つかりました。
ジャガー ルクルト レベルソ・クラシック・スモール・デュエット
¥547,800(記事執筆時の価格です)
”国産モノはリーズナブルにセイコーのスピリット(3万5000円)やメカ(2万5000円)あたりがよい”そうです。
画像のモデルとはデザインが違いますが、セイコーのスピリットというモデルは今でも入手可能。
セイコー スピリット
¥11,550(記事執筆時の価格です)
メカはこちらでしょうか?
SEIKO 時計 ファイブ スポーツ 5 Sports メカ
¥26,730(記事執筆時の価格です)
車は”夢は既に発表のBMW750(1358万円)だけど、現実路線ではレジェンド(399万円)。車の趣味って譲れませんね”
で、最終的に”FDGって、結局…なに?”というオチ。
読み応えがあるファッション誌復活希望
エフデジェはPOPEYEが打ち出したファッションなので、服装以外の文化的背景までガッチリと固めて提案した、というのがこういった気合が入ったページが掲載されている理由でしょうか。
また、当時のファッションは服装だけでなく、ライフスタイルも含めた総合的な提案をするのが当たり前だったのかもしれません。以前、同じ1987年のPOPEYEをご紹介したことがありましたが、今の雑誌よりもライフスタイルの提案が充実していました。
80年代のファッション観は、今後研究していきたいですね。
とはいえ、ここまで読み応えのある内容は、近年のファッション誌にはなかなか見られません。
僕が大好きだったメンズモード誌、MRもとても読み応えがありました。
最近は雑誌がリバイバルしてきているので、願わくばこんな読み応えがあるファッション誌も登場して欲しいですが、なかなか難しいんでしょうねぇ。
ということで、今号のPOPEYEもまだまだ読み応えがある内容が続きます。以降はまた次回。
この記事があなたのお役に立てれば幸いです!