10年前のティーン向けファッション誌、STREET JACK 2010年10月号。分析のし甲斐がたっぷりで、なんと4回の記事に分けてご紹介しました。
2010年のティーンズ向けファッション誌の広告ページ
繰り返しますが、STREET JACKはティーンズ向けのファッション誌。あくまでも僕の推測ですが、メインターゲットは高校生ではないかと思います。
上掲の記事でもご紹介しているように、誌面には20代以上が主なターゲットであるビームスやユナイテッドアローズのようなセレクトショップも登場していますが、広告ページでは4つ目の記事で注目したコンバースのように、ティーンズ向けの商品も少なくありません。
STREET JACK 2010年10月号には、こんな広告ページもありました。
ティーンズ向けと思われる低価格ブランドです。お小遣いでも買えそうな価格帯で、シャツが1,900円、ジーンズは2,900円。456円のシャツや199円のTシャツもあります。
アイテムやデザインを見ていくと、ベースとなっているのはモノトーンで押し出しが強い、ロック感のあるファッション。パンツはスキニーパンツがメイン。裾はブーツやハイカットスニーカーにブーツイン。Pコートなどのアウターは丈が短く、アームホールは細く、シルエットはコンパクト。
また、襟ぐりがかなり広いカットソー、ドレープ感のあるジレ、そしてハット。僕のブログを見て下さっている方なら、「ん?こんなの最近見たような…?」と思われるかもしれません。
その既視感は、先週ご紹介したPOPEYE2008年1月号によるものでしょう。
ロック感のあるファッション、スキニーパンツ、ライダースジャケット、ブーツインなど、2008年のPOPEYEのストリートスナップと2010年のSTREET JACKの広告に見られる多数の要素が一致しています。
日本だけでなく、海外でもこのファッションは人気を集めていました。
こちらはユニクロの広告です。ユニクロですら、このロック感のあるファッションを取り入れていました。
メンズファッションを大きく変えたエディ・スリマン
このロック感のあるファッションを流行らせたのはデザイナー、エディ・スリマンが手掛けたディオール・オムです。
エディ・スリマンは1997年にイブ・サンローラン・リヴ・ゴーシュのディレクターに就任した頃から注目が集まり始め、2000年にディオール・オムのクリエイティブ・ディレクターに就任してから大ブレイク。
MR01年6月号。ディオールオム。エディ無双が始まり出す頃ですね。 pic.twitter.com/lIFHdWrcZe
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」(KADOKAWA)発売中! (@yamada0221) 2018年4月5日
2002年頃には世界のメンズファッションのトレンドリーダーとして確固たる地位を築きます。
MR02年6月号表紙。16年後の今も続く、エディ無双の黎明期。 pic.twitter.com/yhnCq3GeRU
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」(KADOKAWA)発売中! (@yamada0221) 2018年4月8日
エディ・スリマンについてはこちらも記事でも詳しくご紹介しています。
こちらは2003年のディオール・オムのビジュアル。
エディ・スリマンが撮影した、03AWディオールオムのビジュアル。圧倒的な世界観。
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」(KADOKAWA)発売中! (@yamada0221) 2020年12月13日
正直、僕の好みではありませんが、格好良いのは格好良いですよね。この世界観に惹かれる人が多いのは理解できます。
なんだろう。メンズファッションの答えの1つ、みたいな事なのかも。 pic.twitter.com/axWBKwsXSD
これ系のデザインって確実に00sのディオールオムの系譜だと思っています。こちらは03AWコレクション。
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」(KADOKAWA)発売中! (@yamada0221) 2020年12月13日
20年近く影響力を持ち続けるエディ・スリマンのデザインって、やっぱりメンズファッションを大きく変えた一大エポックだったんでしょうね。 pic.twitter.com/bDfcoYQmEI
ファッショントレンドの構造
ここで、ファッショントレンドの構造について解説を。
本当はもう少し複雑ですが、シンプルに表現するとこのビジュアルのようにファッショントレンドは上部のラグジュアリーブランドやデザイナーズブランドが発信し、その1年後くらいにピラミッドの中程のセレクトショップなどが取り入れ、更にその1年後くらいに下部の量販店(ジーンズカジュアルショップやスーパーの衣料品売り場)などが売り出す、という構造です(現在はSNSの浸透でこのピラミッド構造の崩壊が進んでいます)。これは僕の著書、「結局、男の服は普通がいい」の1ページです。
で、POPEYEが主に扱っているのは、このピラミッドの最上部に位置するラグジュアリーブランドやデザイナーズブランド。で、読者(=ストリートスナップ参加者)もかなりファッション感度の高い層が中心です。つまり、2008年当時ディオール・オム的ロックスタイルは十分オシャレなファッションだった、と言えるでしょう。
そして、今回ピックアップしたSTREET JACKの広告ページのターゲットは最下部の量販店と同じ。世間一般的にオシャレと言える存在ではないでしょう。つまり、ディオール・オム的ロックファッションは2010年にはオシャレとは言えないファッションになっていた、ということです。
ディオール・オム的ロックファッションを「終わらせた」デザイナー
ディオール・オム的ロックファッションのブレイクを仮に2002年とすると、少なくとも2008年までの6年間はオシャレなファッションでした。
ですが、2008年から2010年の2年間で、一気にオシャレなファッションではなくなってしまったのです。
2008年から2010年の2年間で何が起こったのは、ディオール・オム的ロックファッションのトレンドを終わらせてしまう、新しくて強力なファッショントレンドの登場です。
そのトレンドを先導したのはデザイナー、トム・ブラウン。こちらはトム・ブラウンの2007年秋冬コレクション。
https://www.pinterest.jp/pin/486881409716965984/
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https://www.pinterest.jp/pin/422845852516698867/
世界中を席巻していたディオール・オム的ロックファッションとは雰囲気が180度違う、育ちの良さそうな新解釈のアメトラスタイルは当時非常に新鮮で、この後一大ムーブメントとなります。
このように、これまでの雰囲気を大きく変える、新しいファッションが革命的に登場したため、ディオール・オム的ロックファッションは「終わり」ました。
このトム・ブラウンの革命については、また近々詳しく分析していこうと思っています。
まだ生き続けているディオール・オム的ロックファッション
さて、トム・ブラウンの登場により、ディオール・オム的ロックファッションは完全に駆逐されたのか?というと、全くそうではありません。
こちらの画像は半年くらい前に撮影したものですが、スーパーの衣料品売り場には今もディオール・オム的ロックファッションの影響が残り続けています。
新しいお仕事のために久し振りにとあるスーパーの衣料品売場をリサーチしたんですが、ティーンズ向けコーナーには今もこんな感じの丸井系のDNAを継承したデザインが健在なんですね。 pic.twitter.com/CufF1OftoR
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」発売中! (@yamada0221) 2020年12月8日
この光景を見て、僕はこんなことを思いました。
これ系のデザインって確実に00sのディオールオムの系譜だと思っています。こちらは03AWコレクション。
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」(KADOKAWA)発売中! (@yamada0221) December 13, 2020
20年近く影響力を持ち続けるエディ・スリマンのデザインって、やっぱりメンズファッションを大きく変えた一大エポックだったんでしょうね。 pic.twitter.com/bDfcoYQmEI
エディ・スリマンが撮影した、03AWディオールオムのビジュアル。圧倒的な世界観。
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」(KADOKAWA)発売中! (@yamada0221) December 13, 2020
正直、僕の好みではありませんが、格好良いのは格好良いですよね。この世界観に惹かれる人が多いのは理解できます。
なんだろう。メンズファッションの答えの1つ、みたいな事なのかも。 pic.twitter.com/axWBKwsXSD
2002年のブレイクから考えると、もう19年。ディオール・オム的ロックファッショントレンドは19年も生き続けていると言えますが、僕はこれをかなり特別な事例だと思っています。
思いっきり時代性があるモードファッションなんだけど、普遍性や一般性も感じられるんですよね。
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」(KADOKAWA)発売中! (@yamada0221) December 13, 2020
フェラーリみたいに、男性なら誰もが一度は惹かれる魅力があると言うか。 pic.twitter.com/7eB3ShWGS9
エディディオールのファッションをざっくり言い表すとすると、”モードロック”って感じでしょうか。
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」(KADOKAWA)発売中! (@yamada0221) December 13, 2020
やっぱり”ロックファッション”(凄くチープな表現ですね笑)って、男の永遠の憧れ的な存在で、それを非常に高いクオリティでリデザインしたのがエディ・スリマン。 pic.twitter.com/ok5zPQg03j
エディ・スリマンのデザインが未だに強い影響力を持ち続けるの理由を探るには、”そもそもロックとは何か”くらいまで遡る必要がありそうですね…大仕事だ… pic.twitter.com/qsmk5p9PKR
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」(KADOKAWA)発売中! (@yamada0221) December 13, 2020
こちらの記事で詳しくご紹介していますが、ロックやモードをベースにした「黒」のファッションはわかりやすく非日常をアピールでき、これまでとは違う自分、ちょっと「ワル」な雰囲気の自分を演出できるという、普遍的な魅力を持っています。この特徴を持っているが故に、ディオール・オム的ロックファッションは非常に長い間支持されているのだと思います。
現状でディオール・オム的ロックファッションはほぼ絶滅状態と言えますが、完全にゼロになるかどうかはまだわかりません。普遍的な魅力があるので、今後も細々と生き続ける可能性もあるでしょう。この辺りも継続的に観測し続けようと思っています。
もしトム・ブラウンが登場していなかったら?
トム・ブラウンの登場により、半ば強制的にディオール・オム的ロックファッションは「終わり」ましたが、もしトム・ブラウンが登場していなかったら、今のメンズファッションはどうなっていたでしょう。
もしかしたら、今も街ではスキニーパンツにブーツインしている人を沢山見かけていたのかもしれません。
今まで、流行っては終わっていったファッショントレンドは数多くあります。今後も今回のようにファッション誌をベースに、トレンドの栄枯盛衰を分析していくつもりです。
この記事があなたのお役に立てれば幸いです!