目次
- 今の感覚から最もかけ離れたファッション
- 大学生がターゲットでマルイ系、セレオリがメインの「FINE BOYS」
- “全身でタイトなシルエットを堪能する”
- 2006年の人気ブランドの今
- “4大上品小物”で“ぐーんと差がつく”
- 人気ブランド、シェラックの今
- “タイドアップとブーツインで先端を気取る”
- コスプレではないかと思うくらいの“最旬スタイリング”
- ユーズドジーンズ×ドレスシャツ=ソフトグランジ
- 黒=大人という感覚
- 00年代の「カッコイイ」を定義したエディ・スリマン
- 「世に出た」頃のエディ・スリマン
- 2001年エディ・スリマン無双始まる
- スキニーデニムブームを牽引したディオール・オム
- ディオール・オムのために42kgのダイエットした「モードの帝王」
- ディオール・オムは「クールなメンズファッション」の答えである
- ディオール・オムが「今もクール」な理由
- 大衆化=ダサくする
- B'zは意図的に「ダサく」している
- 次回に続きます
今の感覚から最もかけ離れたファッション
今回ご紹介するのは「FINE BOYS」2006年12月号です。
この号が発売された2006年の大きな出来事と、流行語はこんな感じでした。
・ライブドア(現・LDH)の代表取締役社長であった堀江貴文らが証券取引法違反容疑で逮捕され(ライブドア事件)、前年にメディアなどを騒がせたヒルズ族も一転して逆風にさらされることとなった。
・夏の甲子園大会で早稲田実業を優勝に導いた斎藤佑樹投手は「ハンカチ王子」と呼ばれ注目を集めた。以降、「○○王子」という言葉が流行るようになる。
・10代から20代を中心として第二次ケータイ小説ブームが起き、翌年にかけてベストセラーが続出するようになった。
・北朝鮮が地下核実験に成功したと発表、日本を含め東アジアおよび国際社会に衝撃が走った。
・エロカッコイイ(エロカワイイ)
・格差社会
・シンジラレナ〜イ
・たらこ・たらこ・たらこ
・脳トレ
・ハンカチ王子
・ミクシィ
・メタボリックシンドローム(メタボ)
大学生がターゲットでマルイ系、セレオリがメインの「FINE BOYS」
「FINE BOYS」は休刊が相次ぐメンズファッション誌も多い中、2023年現在も月刊を継続しています。
大学生を中心としたティーンズがターゲットのメンズファッション誌。
後述しますが、誌面に登場しているのは、マルイ系やセレクトショップオリジナルなど、学生でも比較的手を出しやすい価格帯のブランドが中心です。
僕がこの「FINE BOYS」2006年12月号の内容を見たときに感じたのが、「2023年現在の感覚から最もかけ離れているファッションではないか」、オブラートに包まずに表現すると「今の感覚からすると一番ダサいファッションではないか」いうこと。
2023年現在の感覚から一番かけ離れているファッションが、こんな感じではないでしょうか。
— 山田耕史 ファッションアーカイブ研究 (@yamada0221) 2023年10月3日
2006年「FINE BOYS」。
マルイ系最盛期です。
このスタイルが大流行するに至った経緯を、今週金曜更新の“ファッションアーカイブ”で紐解く予定です。https://t.co/2T6tiBiROi pic.twitter.com/vlOwKA1BRF
今回の“ファッション”では、何故「FINE BOYS」2006年12月号のファッションが「現在の感覚から最もかけ離れているファッション」なのかを分析できればと思います。
“全身でタイトなシルエットを堪能する”
巻頭特集は“5大アウターは「上品着こなし」で差をつけろ!”。
いきなり登場したアウターが、近年ではなかなか見る機会が少ないPコート。しかもショート丈でタイトシルエット。そして、ジップや金色のボタン、切り替えといった主張の強いデザインが目を引きます。
続くのはM−65にモッズコートといったミリタリーアウター。
中折れ帽。
“旬のレザージャケット、着こなしレベルアップのコツは?”
レザーアウターも最近ではあまり見ないアイテムです。
そして、僕的に非常にインパクトがあったのが、“全身でタイトなシルエットを堪能する”という一文。そう、2006年頃はタイトシルエットこそファッショナブルというファッション感でした。そして、タイトシルエットを構成する上で最も重要なアイテムがスキニーパンツです。
2006年の人気ブランドの今
切り替えデザインが目立つレザージャケットはイロコイ、シャツはラウンジリザード、ジーンズはプレッジ。どれも、当時ロックテイストのデザインが人気だった日本のファッションブランドです。
イロコイは現在もブランド展開中。当時よりもマイルドな印象になっています。
ラウンジリザードは2018年にブランド休止。2年後の2020年に復活がアナウンスされます。
ですが、↑の記事にも掲載されているブランドのインスタグラムアカウント↓は、現時点では削除されており、ブランドの活動状況は不明です。
https://www.instagram.com/loungelizard_official/?hl=ja
プレッジはナンバーナインのスタッフだった三浦秀教さんと高田昌哉さんによるブランドですが、こちらも現在の活動状況は不明です。
誌面に戻って、シングルライダースジャケットにシャツ。
表情のある素材のストール。ブーツカットジーンズに主張の強いベルト。
長〜いマフラー。
ボア。
“4大上品小物”で“ぐーんと差がつく”
“カジュアルになりがちなダウンを大人っぽく着るには?”
“ちょっとした小物使いでぐーんと差がつく”ということで挙げられているのが、ロングマフラーとリボンハット。
それに、ホワイトベルトにミニボストンが“4大上品小物”。
ダウンの生地はかなりツヤがあるものが主流。
スタッズやコインが盛り盛りに盛られたベルトが“キレイめ小物”として提案されています。
人気ブランド、シェラックの今
“気になるコートのインナー、どうすればいい?”
ウールコートのインナーにVネックニットとシャツというコーディネートも、長らく見ていない気がします。
“シワ加工と細身のシルエットによって、トレンチコートのオヤジ臭さを解消した今季らしい1着”は、ドメスティックブランド、シェラックのもの。
2006年当時は人気ブランドだったシェラックは2018年に倒産。
現在はタカキューが展開し、ショッピングモールなどに出店しているブランド、セマンティックデザインとのコラボレーション商品が発売されているようです。
“タイドアップとブーツインで先端を気取る”
“冬のテイラードジャケット選びのポイントは?”
並んでいるテーラードジャケットの丈の短さやタイトなシルエットのバランスもさることながら、タイドアップしたシャツの裾をタックアウトし、スラックスの裾をロングブーツにブーツインしているスタイリングが“タイドアップとブーツインで先端を気取る”題されているのは、まさにこの時代を象徴していると感じます。
シェラックのコーデュロイジャケットに肩掛けストール。
コスプレではないかと思うくらいの“最旬スタイリング”
“定番アイテムで作る最旬スタイリング教えて!基本の「白シャツ」&「ジーンズ」マスター講座”。定番アイテムの着こなし提案です。
この2つのコーディネートもなかなかインパクトがありますね。
右は頭にフィットしたフォルムのニット帽に、アウターはライダースジャケット、インナーはボーダーTを白シャツにレイヤード。
左は中折れ帽にワインカラーのショートダッフルコート、Vネックニットを白シャツにレイヤード。2023年現在の感覚からすると、コスプレではないかと思うくらい巷では見掛けない服装です。
千鳥格子柄のダウンジャケットは、斜めに縦にとキルトステッチが走りまくり。マルイ系ブランド、アバハウスのアイテムです。今号にはアバハウスのアイテムがかなり多数登場しています。
チェック柄の色合いにも、時代の雰囲気が強く反映されています。ヘアスタイルや眼鏡にもかなり時代感が出ています。
“白シャツを使った旬のモノトーンスタイルに差をつけるには?”
“温かみのあるアイテムをMIXしよう”と、“チルデンセーター”や“ローゲージニット”とのレイヤードコーディネートを提案してます。
ジャーナルスタンダードやフリークスストアなどのセレクトショップオリジナルブランドが中心。
古着ミックスの提案。
古着自体は2023年現在も普通にお店に並んでいる定番的なデザインですが、2006年の感性で2006年の新品アイテムとコーディネートすると、こんなにも時代感が出るようになります。
ユーズドジーンズ×ドレスシャツ=ソフトグランジ
“定番ジーンズでトレンドスタイルを作るには?”
中折れ帽とスクウェアタイプの眼鏡はセットな感じ。
真ん中の“ユーズドジーンズ×ドレスシャツ=ソフトグランジ”は、ジーンズのダメージがグランジっぽいってことでしょうか。
黒=大人という感覚
“ジーンズに今年らしくジャケットを合わせるには?”
“ブラックアイテムを加えてさらに大人っぽく!”と、黒=大人という感覚が当時は強かったようです。
様々な素材の“ブラックアイテム”。
スタッズベルトやウォレットチェーンといった、マスキュリンな小物も当時のトレンドでした。
そして必需品と言っても過言ではない中折れ帽と、第一ボタンを外したラフな襟元に合わせたナロータイ。
00年代の「カッコイイ」を定義したエディ・スリマン
ここで誌面のご紹介を一旦お休みして、何故2006年当時こういったファッションがトレンドだったのかを紐解いていきましょう。
こういったファッションが流行するに至った理由は多数あります。
ですが、その最も大きな源流は、エディ・スリマンが手掛けたディオール・オムでしょう。
ディオール・オムは2000年代のメンズファッションに多大な影響を与えたブランドです。2000年代のメンズファッションにおける「カッコイイ」はエディ・スリマンが定義したと言っても過言ではありません。
エディ・スリマンが撮影した、03AWディオールオムのビジュアル。圧倒的な世界観。
— 山田耕史 ファッションアーカイブ研究 (@yamada0221) December 13, 2020
正直、僕の好みではありませんが、格好良いのは格好良いですよね。この世界観に惹かれる人が多いのは理解できます。
なんだろう。メンズファッションの答えの1つ、みたいな事なのかも。 pic.twitter.com/axWBKwsXSD