山田耕史のファッションブログ

ファッションは生活であり、文化である。

【1992年】ヘルムート・ラングが確立したファッションの新様式。【インタビュー】

流行通信1992年10月号のヘルムート・ラング特集のご紹介です。レディスがメインの雑誌です。

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ヘルムート・ラングへのロングインタビューの続きです。

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ヘルムート・ラングが語るミニマリズムの意味

ヘルムート・ラング本人へのロングインタビューの続きです。

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自身のデザインが”ミニマリズムのファッション”と呼ばれることに関してどう思うのか?という質問に対して、ヘルムート・ラングはこう答えます。(強調引用者以下同)

”ミニマリズム”という言葉をどう解釈するかで異なるでしょう。ただ単に”シンプルなデザイン”という意味で呼ぶのであれば、違います、それは。難しいことですが、こう説明させて下さい。私がデザインするとき、私は自分を表現すると同時に、そのファッションを着る人が、どう自分を表現するかも考慮します。私も表現者としてアーティスティックなことをしたい気持があるし、だからといって表現したものには責任を負うべきでもある。そこで、私はデザイン要素を凝縮するようにしているのです。美しいファッションで、様々な人々によって着られ、その様々な人々の各々異なったパーソナリティを表現するような服……それを実現しようと考えたなら、明確で力強く分かりやすいデザインにしなければならない、ということなのです。だから、その服に着る誰もが自分を表現できる余地をゆったりと与えられたデザイン、という意味でならば、”ミニマリズム”と呼ばれても結構。それに、私自身のデザインの流れで、’80年代と比較すると今シンプルによりなっているという意味でならば、それも結構。ただ、私は装飾性の高いファッションもデザインしていますよ(笑)。

80年代のファッションはヘルムート・ラングにとっては忌むべき存在だったのでしょうか?ヘルムート・ラングはこうも語っています。

私としては、表面的で見た目のセンセーションを狙ったうるさいデザインが主流だったあの’80年代がようやく終わり、私がずっと追い続けている、内的なエモーショナルの表現を助けるような、充分にソフィスティケートされたデザインが求められ始めた、と思っています。もちろん、私と同様に内的な美を大切にしたいと主張する新しい世代のデザイナーが登場するに及んで、私としてもますます自身を深めました。

僕としては、ここで触れられている「内的なエモーショナルの表現を助けるような、充分にソフィスティケートされたデザイン」が、ミニマリズムのファッションの定義として相応しいのではないでしょうか。

 

80年代のうるさいデザイン

では、”表面的で見た目のセンセーションを狙ったうるさいデザインが主流だったあの’80年代”のファッションとはどういうものだったのでしょうか。

70年代にファッションの発信源がオートクチュールからプレタポルテに移行し、80年代はまさにプレタポルテの絶頂期。

そして、そんなを代表するファッションデザイナー

「80年代」を代表するファッションデザイナーがのひとりがクロード・モンタナです。

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80年代はこのクロード・モンタナのような、強調された肩、絞られたウエスト、ボリュームのあるシルエット、多彩な色使いのデザインが主流。

これをヘルムート・ラングが”うるさいデザイン”と評するのは、頷けます。

今回ご紹介している流行通信は1992年発行。

なので当然80年代は終わっているのですが、他のページに掲載されているファッションには、まだまだ80年代の影響が強いことが感じられます。

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これに対し、同じくこの号に掲載されているヘルムート・ラングの最新コレクションがこちら。

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こうやって比較すると、ヘルムート・ラングのデザインが当時いかに斬新だったのかがよくわかるのではないでしょうか。

 

従来の価値観を信じない新しい世代のデザイナー

さて、上掲のインタビューでヘルムート・ラングが挙げている「私と同様に内的な美を大切にしたいと主張する新しい世代のデザイナー」は、おそらく同時期に頭角を現し始めたジル・サンダーやミウッチャ・プラダのことではないかと思います。

第1回目の記事でもご紹介したように、90年代初頭はソビエト連邦崩壊や湾岸戦争など、社会全体が大きな変革を迎えていた時代でした。

そんな時代について、ヘルムート・ラングはこう語っています。

社会を構成している人々がファッションを着るわけですから、ファッションも当然んあがら、社会と同調して変化すべきでしょう。社会全体が激変していることは、政治経済社会の動きを見れば明らかでしょう。エコロジー、エイズ、ソビエトの解体などに代表される多くの問題によって、単なる表面的な変化ではなく、社会のシステムそのものに、根本的な変化が起こっています。

生きて行く上での価値観が決定的に変化したのです。従来の古い価値観をもう信じない、新しい世代が台頭し始めたのです。

1943年生まれのドイツ人デザイナー、ジル・サンダーは1973年にパリコレクションデビューを飾りますが、1980年には撤退。1980年代後半にミラノに拠点を移してから注目を集めるようになり、1990年代初頭にはトップデザイナーとして、ファッションシーンを牽引していました。

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ミウッチャ・プラダがデザインを手掛けるプラダがデビューを飾ったのは1988年。当初の評価は芳しくなく、ミウッチャ・プラダ自身も後に、「根本的に間違った方向に向かっていた」と述懐するくらいのコレクションでした。ですが、1990年代に入るとデザイナーとしてのアイデンティティが確立され始め、徐々に注目度を高めていました。

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余談になりますが、90年代終盤のプラダはミニマルデザインの最高峰だと僕個人的には思っています。

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ヘルムート・ラングと同じく、ジル・サンダーもミウッチャ・プラダも80年代に人気だったファッションデザイナーとは全く違った価値観を持っていることが充分に想像できます。

 

近代建築の新様式を確立したウィーン郵便貯金局

このように、当時のヘルムート・ラングは新しい価値観のもとで、新しいファッションデザインを提案していました。

ここで再びご登場を願いたいのが、前回の記事でもご紹介した、ヘルムート・ラングが尊敬する建築家、オットー・ワーグナーです。

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オットー・ワーグナーのキャリアの中でも後期の作品であるウィーン郵便貯金局はです。

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ファサードには花崗岩や白大理石が張られていますが、これらの被覆材をボルトで留め、更にそのボルトの頭をアルミニウムで仕上げることで、装飾を排しながらも装飾に代わる視覚的、装飾的効果を打ち出しています

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他にも、内装にはガラスやアルミニウムがふんだんに用いられており、静謐で、明るく透明感のある空間を生み出しています。

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ファッションの新様式を確立したヘルムート・ラング

このウィーン郵便貯金局のデザインを見て、ヘルムート・ラングのデザインに近しい雰囲気があると、僕は感じました。

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ウィーン郵便貯金局は、ワーグナーが建築から歴史主義様式を駆逐し、近代建築の新様式を確立した作品だと評価されています。

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それと同じように、ヘルムート・ラングもファッションの新様式を確立したデザイナーのひとりだと言えるのではないでしょうか。

ヘルムート・ラング自身の言葉を借りれば、そのファッションの新様式とは着る人のパーソナリティを表現する服

外的な美だけでなく、内的な美も大切にする服

長く続いたインタビューは、ヘルムート・ラングのこの言葉で締め括られています。

肝心なのは、女性が着て美しいこと。自分自身が新鮮に感じられるような服でなくては

インタビューについての記事は以上。今号については次回でおそらく最後になると思います。

参考文献:

次回に続きます。

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