プラダ、好きなんです。特に2000年前後のメンズが。
90sプラダ、やっぱりめちゃんこ格好良いすね。 pic.twitter.com/NzZdFSnKa3
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」(KADOKAWA)発売中! (@yamada0221) 2021年4月16日
大好きなコムデギャルソンオムプリュス(川久保玲が手掛けるコレクションライン)はシーズンごとにテーマが設定されており、自分はどのシーズンが好きなのかはっきりとわかっているのですが、プラダに関してはどのシーズンがどんなコレクションだったのか、そう言えばよくわかっていませんでした。
今回調べてみると、プラダのメンズラインがスタートしたのが1995年。
ですが、当初はランウェイショーではなく、展示会形式で発表されていたようです。こちらは僕が持っているMR1996年12月号に掲載されていた 、1997年春夏コレクションのプラダ。
そして、1998年春夏コレクションで、初めてプラダのメンズがランウェイショーで発表されたようなのですが、このコレクションがめちゃくちゃ素敵だったので、今回は1998年春夏プラダメンズコレクションにフォーカスを当ててご紹介します。
90年代後半はミニマルデザインがトレンド
その前に、当時のメンズファッションのトレンドを確認しておきましょう。
こちらは上掲画像と同じくMR1996年12月号からのメンズコレクションのキーアイテム。ミニマルデザインのショートパンツです。
同じように、ミニマルなデザインのノースリーブもピックアップされています。
コレクションの総評で「ミニマリズム一色からの脱却にチャレンジするかどうかのスタンスが今後の方向性を決定していくしていくことだろう」と言及されていることからもわかるとおり、90年代後半のメンズモードではミニマルデザインがトレンドでした。
以前当ブログでご紹介したファインボーイズ1996年7月号でも、同じようなミニマルデザインが提案されています。
ミニマルデザインってどんなの?
というか、そもそもミニマルデザインとはどういうデザインなんでしょう?現代美術用語辞典から引用します。
「ミニマル・デザイン」とは装飾を排除した、必要最低限の機能からなるデザインのことである。近現代の美術・音楽におけるミニマリズムは、1960年代に盛り上がりを見せた「最小限の美学」だったが、これに対して、デザインの世界では20世紀前半にモダン・デザインが確立され、その源流・過程で、「装飾は罪悪である」(アドルフ・ロース)、「形態は機能に従う」(ルイス・サリヴァン)、そして「Less is more」(ミース・ファン・デル・ローエ)など、合理主義・機能主義のミニマリズムに触れる言説が生まれた。その根底には、産業や科学技術との強い結びつきがあり、製品や部材の生産・流通に関わる視点から、装飾を廃することを達成し、フォルムと機能の一致や、量産を念頭に置いた製品の規格化・標準化に至る。これは、プロダクトに留まらず、「住宅は住むための機械である」(ル・コルビュジエ)という言葉が示す通り、建築の領域にも及んでいる。
ル・コルビジェとフランク・ロイド・ライトとともに、近代建築の3大巨匠と呼ばれるミース・ファン・デル・ローエの傑作、ファンズワース邸。
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彼が遺した名言「Less is more(より少ないことは、より豊かなこと)」「God is in the detail(神は細部に宿る)」が最も端的に表現された建築と言われています。
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「装飾は罪悪である」という言葉を生んだ、アドルフ・ロースの代表作、ミューラー邸。
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彼は「民族の進歩の程度が低ければ低いほど、それだけやたらと装飾を使う」「文化の進化とは日常使用するものから装飾を除くということと同義である」などとも語ったそうです。
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アドルフ・ロースはこうも語ったそうです。
「ある消費者が家具を買ったとする。十年後にはもうその家具がイヤになったとする。すると十年後に家具を買い換える。こういう人の存在は、寿命が尽きて使えなくなるまで買い替えない存在よりも、ずっと好ましいものだ。ものを作る産業界がそれを望んでいる。人が次々とものを買い換えることによって多数の人たちが仕事にありつくことができる」
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余談ですが、これと非常に近い、というかほぼ同じことを著書「結局、男の服は普通がいい」 に記しているんです。
まぁ僕の場合は石津謙介さんの受け売りみたいなもんですが笑、僕が長年トレンドを扱う仕事をしていて強く感じたことであることは間違いありません。
プラダの「美しい」ミニマルデザイン
上掲の1996年のMRでは「ミニマリズム一色からの脱却にチャレンジするかどうか」とありましたが、その後もプラダは更にミニマルデザインを徹底的に追求し続けました。
そして、こういったミニマルデザインの定義である「装飾を排除した、必要最低限の機能からなるデザイン」をメンズファッションで最も美しく表現したのが1998年春夏のプラダではないかと僕は思うのです。
僕的に、この「美しく表現」というのがポイントだと思っています。ただ単に、シンプルなだけではありません。
シンプルなデザインに、洗練された美しさを加味しているのが、1998年春夏のプラダの真骨頂です。
例えばこのルック。オフホワイトのシャツに、それよりもやや薄い色調のパンツ。シャツの下に着ているのはTシャツでしょうか。これはホワイト。こういった、非常にシンプルなデザインの服に、単なるシンプルではない微妙で絶妙な同系色のグラデーションを配することで、シンプルさが更に際立っています。
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センスが現代的になればなるほど上着の前をぴっちり留める
こちらは更にシンプル。
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アドルフ・ロースは「時代が進み、男たちのセンスが現代的になればなるほど上着の前をぴっちり留めるようになっていく」と語ったそうですが、これらのルックはその言葉を体現しているかのようです。
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ミニマルに表現したテーラードジャケット
メンズファッションを代表するアイテムであるテーラードジャケット。端正な印象の狭いVゾーン、ハリと光沢がある生地、くるぶし丈のスラックス、靴紐を配したベルクロのレザーシューズ。そしてやはり同系色のグラデーションの色遣いが、単なるシンプルではないミニマルデザインを表現しています。
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カジュアルなアイテムもミニマルに
ミニマルデザインと言うと、硬質的な素材感のイメージがありますが、プラダはニットのような 柔らかい素材を用いたアイテムでも美しいミニマルデザインを実現しています。
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カジュアルなスポーツウェアも同様です。
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古典主義と合理主義を純化
こうやって見てきてわかるように、このコレクションには突飛なデザインのアイテムはほとんど登場していません。テーラードジャケットやシャツ、スラックスといった、古くから存在している、メンズファッションのベーシックアイテムばかりです。
ミース・ファン・デル・ローエはヨーロッパの伝統的な古典主義と、近代工業の現代的な合理主義を徹底的に純化し、両者を結合しました。
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1998年のプラダがクラシカルなアイテムばかりなのに、近代的で洗練された印象なのも、ミース・ファン・デル・ローエのように、古典と合理を突き詰めた結果なのかもしれません。
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