野口強さん。
木村拓哉さんなど、名だたる芸能人を手掛けてきたスタイリストです。僕の手元にある1999年のPOPEYEでは巻頭で野口さんの特集ページが組まれているなど、特に90年代にファッションにハマっていた男性にとっては馴染み深い方だと思います。
僕がパリに留学していたときによく行っていた中華屋さんの隣のテーブルに野口さんと、同じく90年代から活躍しているスタイリストの祐真朋樹さんがいたことがありました。パリメンズコレクションの期間だったと思います。話してもわかってくれる人が少ない僕の小さな自慢です笑
SUKEZANE Tomoki(祐真朋樹) | 祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.27 野口強さん(前編) | Web Magazine OPENERS
日本のメンズファッション界に与えた影響は少なくなく、一時期圧倒的人気を誇ったナンバーナインも、野口さんが推していたブランドの1つでした。上掲のPOPEYEの野口さん特集ページには彼が注目する新世代の才能の1人として、まだブレイク前のナンバーナインのデザイナー、宮下貴裕さん(26歳!)が珍しく顔出しで登場しています。
そんな数々のブランドをスターダムに押し上げたこともある野口さんも今や大御所スタイリストと呼んでいいくらいの位置でしょうし、錚々たる芸能人をスタイリングしてきた方ですから、ファッションに関する言葉には一聴の価値があると思います。
「洋服なんておまけみたいなもん」
そんな野口強さんのこちらのインタビューが興味深かったのでご紹介します。
インタビューの前半はナノ・ユニバースとのコラボレーションアイテムについて、そして後半は野口さん自身のファッション観について。野口さんが自身のファッション観について話しているのってそういや今まで見た記憶がほとんどないので、結構貴重なインタビューだと思います。
まず、僕が面白いと思ったのがこの部分です。(太字は引用者)
──「ファッション業界」全体に目を向けると、かつて雑誌が牽引(けんいん)していた時代から、SNSや通販サイトの拡大、ファッションアイコンの変化などで業界全体が移り変わっています。こうした時代の変化とともにメンズファッションにおける「格好良さ」も変わってきていると感じますか?
野口 それは難しいよね。結局、洋服だって着る人を選びますから。
──やはりモデルがいいと服も似合う。
野口 いや、そうではなくて、例えばリーバイスの501なんか細いモデルが着ても全然似合わなくて、どっちかというとガッチリした背の低い人の方が似合ったりするわけ。でも、結局突き詰めるとその人のキャラクターなんじゃないかな。どんなにスタイルが良くったって中身が薄っぺらいと洋服着せても薄っぺらいんだよね。
──つまり、その人の中にあるキャラクターがにじみ出たもののひとつがファッションであって、本質的にその人がカッコいいかどうかで決まると?
野口 そうやって言っちゃうと終わっちゃうんですけど(笑)。でも本当はそうなのかなって思う。洋服なんておまけみたいなもんで。
確かにこうやって言っちゃうと終わっちゃいますけど、これが答えなんでしょうね。洋服なんておまけ。高価なブランドものを着ようが、レアなプレミアものを着ようが全部おまけ。中身が薄っぺらいと何を着ても薄っぺらいんです。
流行に振り回されない
そして話は流行について。(太字は引用者)
──近年ノームコア(デザイン性、装飾性などを追求しない極めて簡素なファッションスタイル)やユニクロのような脱個性のファッションが求められているのも、内面的なカッコよさが透けてしまうからなのでしょうか。
野口 それはそうかもしれない。一方で昔よりファッションの回転が速くて、でも昔ほどみんな流行に振り回されなくなってて冷静だと思います。
先日ご紹介したビームスのファッション史本なんかを読むとよくわかりますが、DCブームや渋カジなど、90年代以前は1つのファッションが流行すると若者はみんな同じ格好をしていたそうです。
ですが、そうやって流行に振り回されることの不毛さに多くの人が、特に若者は無意識的に気付いているでしょうね。
流行なんて横目でチラ見しておいて、自分の好みのものがあったら手を出してみる程度で充分だと思います。流行を強く意識すること自体、もう時代遅れでしょう。なんせ、ファッション誌などでトレンドのコーディネートを長年提案し続けてきた野口さんが言ってるくらいですしね。
「クローゼットのモノがどんどん少なくなる」
上掲の1999年のPOPEYEでは「買い物王」と呼ばれている野口さんですが、20年もの年月が経つと考え方も変わったようです。(太字は引用者)
──野口さんはこれからの時代にどういう格好良さを追求していきたいですか?
野口 自分? どうなんだろう、あまり考えたことないな……。たぶん今と変わんないと思うけど、ひとつわかるのは自分のクローゼットのモノがどんどん少なくなると思う。すでに絞りこんだんですけど、さらに絞り込まれていく気がする。実際、自分のまわりがそうなってきていますよね。引っ越しの際に整理して洋服は2ラック、靴も10足だけ、とか。一方で資料や思い出として残しておきたいものがけっこうな数あったりして、その境目はあいまいなんだけど。
僕も以前の記事でミニマリスト願望について書きましたが、モノが少ないのって理想ですよね。
とはいえ単純に少なければそれでいいという訳ではなくて、やはり自分が選んで買ったモノの中から、さらに厳選した特上の良いモノだけが詰まったワードローブが理想ですね。
・「なんでもトライしてみて、そこから自分のスタイルを見つけだせばいい」
そしてインタビュー最後のこちらの言葉に僕はとても共感しました。(太字は引用者)
──洋服を絞り込めるのは、自分のスタイルが見えているからとも考えられます。そこにたどり着くにはどうすれば?
野口 とにかくね、食わず嫌いをやめた方がいい。自分が好きなものや、似合っていると思っているものと、他人から見て似合ってるものってけっこう違いますから。なんでもトライしてみて、そこから自分のスタイルを見つけだせばいい。ひとつのスタイルばっかり着ててもわかりませんよ。最初は恥ずかしいかもしれないけどね。他人は人のことをそこまで深く見てないからね。俺だってこんな仕事してるけど会う人、会う人“オシャレだな”“ダサいな”なんて見てないから。周りの目を気にせず、どんどん新しいものに挑戦すればいい。
どうせ「他人は人のことをそこまで深く見てない」んですから、他人の目を気にして服を選ぶよりも、自分の「好き」を追求しまくればいいと思います。もちろん最低限の清潔感とTPOは必須ですが。
僕も自分の「好き」を追求し続け、ようやくここ数年で自分のスタイルらしきものが見つけられたかなーという感じです。
とはいえ、「はい、これで自分のスタイル完成!」としてしまったらそれ以降は挑戦しなくなって老け込んでしまうと思うので、挑戦は常に続けていきたいですね。
2019年はどんな新しいファッションに挑戦しようか、楽しみです。
最後までご覧いただきありがとうございました!