ユナイテッドアローズの立ち上げメンバーで、僕が敬愛する栗野宏文さんの初の書籍「モード後の世界」。
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読んでいると共感のオンパレード。これまで2つの記事でご紹介してきました。
「モード後の世界」にはまだまだご紹介したい内容があります。今回のテーマは、日本人デザイナーはなぜクリエイティブなのか。
セダクション=性的誘惑性という視点
80年代からパリコレクションなどでデザイナーを見続け、現在もディストリクトのバイイングを手掛ける栗野さん。「モード後の世界」ではマルタン・マルジェラやジョン・ガリアーノなど、数多くのデザイナーが登場していますが、そのなかでも圧倒的に多く登場しているのが、コムデギャルソンの川久保玲。
川久保玲、格好良過ぎるやろ… pic.twitter.com/8uxQuwGzoL
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」発売中! (@yamada0221) 2017年4月14日
栗野さんはディストリクトなどでコムデギャルソンの商品を扱うだけでなく、一時期は川久保玲がデザイナーを務めるコムデギャルソンのメンズフォーマルライン、コムデギャルソンオムドゥのディレクションに関わるなど、川久保玲とは密接な関係にあります。
また、ディストリクトではコムデギャルソンの他にアンダーカバーやカラーなどの日本人デザイナーズブランドもセレクトしています。
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また、コムデギャルソンと共に御三家と呼ばれるイッセイミヤケ、ヨウジヤマモトも例に挙げ、日本のデザイナーズブランドはなぜ面白いかについて、栗野さんはこう分析しています。
これらのブランドが「なぜユニークで面白いか」と問われた時、僕は「日本には西洋のような階級社会がない」ことと、「日本のファンにはセダクション=性的誘惑性がない」からと解説します。
僕にはこのセダクション=性的誘惑性という視点はなかったのですが、読んでみて非常に納得感がありました。
イッセイミヤケにもコムデギャルソンの川久保玲にもセダクションのセの字もありません。ヨウジヤマモトは二人と違い、少しセダクションのようなものがありますが、それも西洋的なセクシーさとは異なり、むしろ和服の「陰翳礼讃」的なセダクションです。彼らが性の誘惑とか、西洋的な美意識とは違う価値観で成功したことで、その後に出てくる日本人デザイナーも、西洋の美意識や服のコンテキストからは逸脱したものを常に背負っているようなところがあります。それが、日本のファッションを面白いものにしていると思うのです。
コムデギャルソンもヨウジヤマモトもイッセイミヤケも、確かに初期である80年代の作品は性的な印象は全くありません。
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デザインそのもので勝負する日本人デザイナー
その後、服そのものの在り方を模索するコムデギャルソン、西洋的なオートクチュールの手法を取り入れるヨウジヤマモト、プリーツなどの独自の素材を創造するイッセイミヤケというように、それぞれ独自の進化を続けます。
同じく92AWコムデギャルソン。90sギャルソンはどうしても97SSのコブドレスが注目されがちですが、個人的に90s川久保玲の真骨頂は92AWだと思っています。 pic.twitter.com/YcIsvOY91a
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」発売中! (@yamada0221) 2020年5月16日
もちろん、97AWコブドレスも最高ですけどね!
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」発売中! (@yamada0221) 2020年5月16日
…ですが、当時12歳だった92AWリリスコレクションはもちろんのこと、当時高校生だったコブドレスもリアルタイムでは経験していないので、リアルタイムだった人は超羨ましいです。
どれだけ衝撃的だったのか。体感したかった。 pic.twitter.com/0VIAK9MThO
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日本人デザイナーがこのように進化を続けるのも、性的誘惑性がないことが原因だと栗野さんは分析します。
日本の戦後の洋服は着物から切り離され、やがてデザインそのもので勝負する方向へと発展し続けたことにより、逆に日本のファッションから性的なものがなくなりました。
デザインそのもので勝負するから、言い方を変えるとデザインでしか勝負できないから、個性的なクリエイションになり得たということでしょう。
日本のファッションの未来を支えるのは草食系男子?
確かに1981年のコムデギャルソンとヨウジヤマモトの「黒の衝撃」は、ファッション史に残る革命的出来事となりました。
ですが、僕は御三家に続くような世界に衝撃を与える日本人ファッションデザイナーが登場していないことが以前から不思議でした。
80年代の黒の衝撃、90年代の裏原と、日本のファッションは世界に影響を与え続けてきたのに、00年代以降は特にこれといったものはないんですよね…何故なんでしょう。 https://t.co/yYx707YR4S
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」発売中! (@yamada0221) 2020年10月23日
90年代の裏原宿系ムーブメントは10年代以降のストリートファッションに強い影響を与えていますし、その裏原宿系の影響を受けたストリート発のクリエイターが現在のモードの主役になっています。
ですが、現時点では00年代以降に生まれた日本のファッションで、世界に大きな影響を与えたものは存在しないと僕は考えています。
御三家から裏原の系譜を考えると、ヴァージル・アブローやマシュー・ウィリアムズみたいなラグジュアリーブランドのディレクターを務める日本人が出てきても良かったのでは。
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」発売中! (@yamada0221) 2020年10月16日
HFはブルガリやモンクレーとやったりしてますが、その下の世代で世界的な活躍をしている人ってあんまいないですね。
栗野さんは「草食系男子が日本をファッション大国にする?」と題された章で、こう分析しています。
日本は今や草食系男子の国です。でもだからこそ、日本のファッションは面白いし、日本は世界一メンズファッションが栄えている国でもあります。若い人が洋服を買わなくなったと言われるようになりましたが、世界的に見て男性がこんなにおしゃれな国というのは見当たりません。
コロナ禍でラグジュアリーストリートブームが終焉を迎えました。
その後、日本のメンズファッションを索引しているのは草食系男子。
特に草食系男子に端を発する古着ブームは、肉食系男子にも波及しています。
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栗野さんはジャニーズが草食系男子の形成に大きく寄与していると指摘しています。
欧米のおしゃれ男子のゲイ比率は相当高い。そのゲイにあって草食系男子にないもの、それは性的誘惑です。日本のおしゃれ男子にもゲイの方はいますが、それ以上に草食系男子が多い。ジャニーズなどは草食系男子の最たるものでしょう。友情や優しさを各とするジャニーズ的在り方が日本の若者のマインドや価値観に良い意味で寄与している部分は大きいだろうと思います。
以前ブログでもご紹介したインスタグラム古着メディアのように、草食系男子から新しいファッションがどんどん生まれています。
もしかしたら今後、黒の衝撃や裏原宿系のような世界に大きな影響を与えるファッションが草食系男子から生まれるかもしれません。
この記事があなたのお役に立てれば幸いです!