山田耕史のファッションブログ

ファッションは生活であり、文化である。

たった1枚のシャツが教えてくれた、田中啓一の創造性と川久保玲の革新性。

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少し前ですが、こんなシャツを手に入れました。

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”大人の男が着て恥ずかしくない”田中啓一の服

コムデギャルソンオム。こちらのグレーのタグから、田中啓一さんがデザイナーを務めていた時代のものであることがわかります。

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年代やラインによって違いがありますが、多くのコムデギャルソンの商品はタグの「AD○○○○」で製作年がわかるようになっています。こちらのシャツは「AD2003」なので、2003年製作。生地などから推察するに、2003年秋冬コレクションのものではないかと思います。

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田中啓一さんはコムデギャルソンに入社した1990年から退社する2003年まで、コムデギャルソンオムのデザイナーを務めていました。

以前の記事でもご紹介しましたが、僕は田中啓一さんによるコムデギャルソンオム、通称田中オムの大ファンで、特に1999年〜2002年くらいは頻繁に梅田阪急のお店に通い、当時大学生だった懐が許す限りの服を購入していました。

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↑の記事でも触れていますが、田中オムの基本は”大人の男が着て恥ずかしくない、でもどこかに必ず新しさがある服”。パッと見はシンプルに見えますが、実はデザインや素材が非常に凝られている服が多いのが特徴です。

 

生地の加工方法を服のデザインに取り入れた川久保玲の革新性

それに対し、コムデギャルソンの創始者で、株式会社コムデギャルソンの社長でもある川久保玲がデザイナーを務めるコムデギャルソンオムプリュスは、パリコレクションに出展していることもあり、デザインにとてもインパクトがあり、その傾向は近年特に強まっています。

hypebeast.com

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そんなコムデギャルソンオムプリュスのコレクションの中で、名作と名高いのが1994年秋冬コレクション。

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https://tenpomap.blogspot.com/2015/01/1994-aw-tokyo-comme-des-garcons-homme.html

そして、そのコレクションでとても印象強く打ち出されたのが縮絨です。

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↑の記事で詳しくご紹介していますが、縮絨とはざっくり言うと、ウール生地に特殊な加工を施して縮めること。こちらは僕の手持ちの1994年秋冬コレクションのジャケットで、ジャケットとして縫製された後に縮絨加工が施されています。

 

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表地を縮絨加工で縮ませることで、本来表側からは見えない裏地が露出しています。

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縮絨は川久保玲が発明した手法では当然ありませんでしたが、生地の加工方法であった縮絨を服のデザインに取り入れて打ち出した点に、川久保玲の革新性があると思います。

 

縮絨を取り入れた田中オムのシャツ

実は冒頭でご紹介した田中オムのシャツは、そんな川久保玲が打ち出した縮絨が取り入れられています。前立や襟、カフスに配されたタータンチェック柄の生地

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こちらはウール100%の生地で、おそらく縮絨加工が施されており、強く収縮しています

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一番わかりやすいのが、前立でしょう。このように、裏側から見るとそんなに縮んでいるようには感じません。

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ですが、こうやって表から見ると、綿100%の表地が強く収縮していることがわかります。

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前立のラインはうねうねと曲がっています。

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襟にも強くシワが寄っています。

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カフスも同様。僕はこのシャツの新品の状態を知りませんが(当時もそこそこお店には通っていた筈なんですが、記憶にありません)、おそらく新品状態ではここまでウール生地部分は縮んでいなかったと思います。前所有者が洗濯を重ねることで、ここまで縮んだのでしょう。

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川久保玲の革新性と田中啓一の創造性

上掲の川久保玲によるコムデギャルソンオムプリュスの縮絨ジャケットはあまりにデザインのインパクトが強く、「着られない」と感じる人も少なくないでしょう。実際僕も、着ていく場所や会う人を選ぶ服だと感じています。

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ですが、田中啓一によるコムデギャルソンオムのシャツは、そんなインパクトのある縮絨を部分的に取り入れるという、かなり凝った素材とデザインが隠されているにも関わらず、パッと見のデザインは普通なので、業種や職種によってはビジネスユースもできるでしょう。僕の場合だと、これを着て子供の保育園の送迎に行っても、特に周りから浮かずにいられる筈です。

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縮絨をファッションデザインに取り入れた川久保玲の革新性

その革新性を取り入れつつ、大人が着て恥ずかしくない服を作り出す田中啓一の創造性

このシャツからは、そんな2人のデザイナーの卓越した能力を感じました。

 

”紳士服の基本を外さない”から古臭くならない

今回のご紹介したコムデギャルソンオムのシャツに、古臭さは微塵も感じられません。それは、以前の記事で触れたように、コムデギャルソンの服には”トラッドマインド”があるから。

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川久保玲も、田中啓一も、服作りにおいて”紳士服の基本を外さない”ので、時代を経てもその魅力は古びません

メルカリやヤフオクなどで日々チェックしていますが、田中オムの市場価値は以前よりも更に高まっています

上掲記事でもご紹介しましたが、インターネットで調べても田中啓一さんが近年どういった活動をされているのか、僕にはわかりませんでした。

もし叶うならば、またコムデギャルソンオムのデザイナーに就任し、川久保玲が今もなお切り開いているメンズファッションの可能性を、大人が着て恥ずかしくない服で表現して欲しいものです。

川久保玲と田中啓一は本当に名コンビだったと、今改めて強く感じています。