山田耕史のファッションブログ

ファッションは生活であり、文化である。

【2013年】10年前の『smart』から分析する「タンスの肥やし」になってしまう服の特徴。

目次

 

今からちょうど10年前の『smart』

今回ご紹介するのは、『smart』2013年8月号です。表紙は本田翼さん。

2013年というと、今からちょうど10年前。

10年一昔と言いますが、2013年に人気だったドラマやヒット曲を見てみると、「結構前だなぁ」と感じる人が多いのではないでしょうか。

 NHK連続テレビ小説『あまちゃん』。www.youtube.com

『半沢直樹』。

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『進撃の巨人』。

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『恋するフォーチュンクッキー』。

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10年前の服が全部タンスの肥やしになってしまった理由

『smart』のメインターゲットは高校生から大学生を中心としたティーンズ。あらゆる年代の中で、最もトレンドに敏感な層です。

そして、今号の特集が「リアル大調査で見えた!流行りモノ!」

つまり、2013年当時人気だったファッションがはっきりわかる内容だということです。

僕は当時、ファッション企画会社で働いていました。

主な業務のひとつが、ファッショントレンド予想資料作成。

そして、その作成した資料をクライアントであるメーカーや小売店にプレゼンするのですが、そのとき会社の社長によく言われていたのが「資料に掲載しているトレンドアイテムをプレゼンのときに実際に自分でも着ていると説得力が増す」ということ。

なので、当時の僕はセレクトショップなどで買ったトレンドアイテムをよく着ていました

今、僕がよく着ているレギュラー古着と比べると、何倍も高価なものがほとんどだったと思いますが、今もクローゼットに残っているのは、ほぼゼロです。

つまり、それ以外はほぼ全部タンスの肥やしになってしまった、というのが現在の状況です。

なぜ、10年前の服はほぼ全てタンスの肥やしになってしまったのか。

その理由を探ってみます。

 

ベーシックアイテムもトレンドの着こなしで「古さ」が強くなる

“流行りモノ”の筆頭に挙げられているのが、“ボーダーカットソー”

“脅威のリピート率!定番化してるからこそ「今年も着たい」んです!!”という文言がある通り、この数年前からトレンドだった「マリン」を象徴するアイテムとして人気を集めていました。

ボーダーカットソーの代名詞的存在のセントジェームスのスタッフさんによると、「長袖を肩に掛けたり、腰に巻いたりと今年らしい着こなしで取り入れる方が増えています」と、10年前という年月を感じさせる着こなしが登場しています。

次ページに、その具体例が挙げられています。

“ボーダーTシャツはこう着こなす!”というキャプションが付けられている、モデル着用のボーダーT×リジッドデニムのコーディネートは2023年の感覚でもそれ程違和感はありません。

ですが、“注目のテクニック”として紹介されている“シャツの肩掛け”を加えると、途端に「10年前感」が強烈に出てきます。この頃確かに、「プロデューサー巻き」なんて呼ばれるこのような着こなしがトレンドでした。

アイテム自体は割と普遍的なものだけれど、コーディネートにトレンド性の高い要素を加えることで「古さ」が強くなる、ということがよくわかると思います。

次ページはシャツ。

“特に売れていたのは”ギンガムチェック”!“。ギンガムチェックシャツ自体はメンズカジュアルファッションの定番アイテムですが、このような平置きアイテムを見るだけでも。シルエットや柄のサイズ(この場合は細かい)に「古さ」が出ているのがわかります。

“切り替えポケット”や“七分袖”などのデザインが加わると、さらに時代感は増します

ギンガムチェック柄のようなトラディショナルな雰囲気のシャツに、“切り替えポケット”や“七分袖”などの要素をプラスするのは、上述のマリンスタイルがヒットしてから一気に広がったデザインです。

 

大ヒットしたのは「着やすいのに真新しいから」

次ページの“ポケット付きTシャツ”も同じく、マリンスタイルのヒットが契機となってポピュラーになったデザイン

“昨年より急激に種類が増えた!”という文言から、前年の2012年には既に売れ線のアイテムだったということがわかります、

“ポケット切り替えが人気!”という文言からもわかるように、「ポケットTシャツ」という、既に売れた実績のあるデザインに乗っかった上で、いかに新鮮味のあるデザインを提案できるかを、各社競っていたのでしょう。

チェック柄にパッチワーク、カモフラージュ柄など当時はポケットTシャツのデザインは多種多様でした。

ベースは無地Tシャツなので、誰でも着やすい

でも、ポケットにデザインをプラスしているという真新しさがあるので、大ヒットアイテムになったと思われます。

 

足し算デザインは「古さ」が強くなる

無地Tシャツに柄ポケットという、単純な足し算デザインはインパクトがあるのでマスに広がりやすいという特徴もあります。

この少し前の2009年頃に足し算デザインとして大ヒットとなったのが、裾裏チェック柄パンツでした。

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ですが、真新しいデザインはごく一部の定番化する例を除いて、ほとんど全ては「古さ」が強くなってしまいます

大ヒットすると、街に似たようなデザインの服を着た人で溢れてしまいます。

そうなるとやはり、数年後には「タンスの肥やし」になってしまうことからは逃れられないでしょう。

セレクトショップスタッフの“ポケT”の着こなし。ショートパンツや肩掛けしたシャツなど、リゾート柄も当時のトレンドデザインでしたが、これだけインパクトのあるデザインはかなり「古さ」が強くなります

“ネットで売れてるのはコレ!ZOZOTOWNのトップ3”では、HAREの花柄パンツやナノ・ユニバースのデニムシャツがランクイン。“ZOZOTOWNとは…”という注釈が入れられているところから、ZOZOTOWNの知名度がまだそれほどでもなかったということがわかります。

 

「派手色」と「渋色」、「古さ」が出る色はどっち?

次はボトムス。“この夏ヒットのショーツはカラバリも無限大!「派手色」&「渋色」の二大潮流に注目!”

こうやって、「派手色」と「渋色」を対比させたビジュアルだと非常にわかりやすくなりますが、やはり「派手色」は「古さ」が強く出るのに対し、「渋色」には普遍性が感じられます

グリーン、ブルー、イエロー、ピンクと、まさに“カラバリも無限大!”です。僕も当時、様々な色のカラーショーツを揃えていた記憶があります。もちろん、今は手元に一枚もありません。全部捨ててしまいました。

「派手色」に比べ、やはり「渋色」のショートパンツは2023年の今履いても違和感はなさそうです。

 

シルエットよりもキャッチーなデザインに「古さ」が出る

次ページもパンツ。““細黒パンツ”は穿くだけでスタイリッシュ!”。2000年代中盤から2010年代前半まで大人気だった、スキニーパンツですね。

2023年現在主流となっているゆったりシルエットのカーゴパンツとは正反対のシルエットです。

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ですが、スキニーパンツ単体ではそれほど「古さ」は出ていないように感じます。

そこに、ジレにVネックニット、そしてスキニーパンツというコーディネートになると、一気に「古さ」が強くなります

“細黒パンツ”着用者のストリートスナップ。

トップスを隠して見てみるとよくわかりますが、スキニーパンツとシューズだけではそれほど「古さ」は出ていないように思えます。

ですが、マリンボーダーの七分袖Tシャツや、ネックの空きが非常に大きいTシャツなど、トレンド性の高いアイテムと合わせることで、「古さ」が強くなります

つまり、このスキニーパンツの例では、シルエットよりもキャッチーなデザインのほうが「古さ」が出る、ということがわかります。

 

トップクラスの「古さ」が出る変化球的コーディネート

次はカラー。“カラーはダントツ!“ネイビー”がキテます!!”とのこと。

やはり、ネイビーという色自体は先程の「渋色」同様、それほど「古さ」が出ません。

↓のようにネックの空きが極端に大きいTシャツなど、デザインのほうに「古さ」が出るようです。

こちらのリゾート柄のジレにターコイズブルーのショートパンツ、そしてネイビー配色のレザーシューズは、今回でもトップクラスの「古さ」ではないでしょうか。

派手な柄、派手な色、かなり細身のシルエット、そしてジレ、半袖Tシャツ、ショートパンツにレザーシューズという変化球的コーディネートという要素が揃っているからこそだと思います。

小物です。““ベースボールキャップ”が街で大増殖!”。

ニューエラのネイビーのベースボールキャップ

キャプションにもある通り“定番の普遍性”を備えたアイテムですが、ペンキで点描したようなプリントがプラスされると、“今の気分”、つまり2023年現在から見るとかなり「古さ」があるデザインに変化します。

こちらでも、ショートパンツに革靴という変化球的コーディネート。当時人気がある組み合わせだったのでしょう。“キャップのカジュアル感を中和させる役目を果たしている”というキャプションが付いているので、このコーディネートにスニーカーだとカジュアル過ぎる、というのが2013年の感覚だったと思われます。

 

スケボー、流行りましたねぇ…

本題からは少し離れますが、このページを見て「おぉ…」と声が出てしまいました。

そうなんです。この頃スケートボードが大流行して、原宿や渋谷を歩いていると↓のようにスケボーを持ったり、リュックにくくりつけたりして歩いている若者がたくさんいたんです。““スケートボード”がおしゃれです!”というタイトル通り、ほとんどの人にとっては単なるオシャレアイテムでした。

 

「古さ」が出やすいファッションの特徴と普遍性があるファッションの特徴

ということで、これまで見てきた中で「古さ」が出やすいファッションの特徴をまとめると、以下のようになると思います。

・足し算デザイン

・派手な色

・変化球的コーディネート

ここから逆に考えると、普遍性があるファッションの特徴は以下になるでしょう。

・シンプルでベーシックなデザイン

・落ち着いた色

・オーセンティックなコーディネート

この要素を踏まえていると、10年後に振り返ってみても「古さ」はほとんど出ないのではないかと思います。

「古さ」が出るファッションは悪なのか?

とはいえ。

この記事でずーーーっと「古さ」を槍玉に上げておいてなんですが、僕個人としては「古さ」が出るファッションもそれはそれでいいんじゃないか、と思っています。

今回は2023年の感覚で2013年のファッションを振り返りました。

これまで僕は“ファッションアーカイブ”で昔のファッションをたくさん見てきましたが、だいたい10〜15年前くらいのファッションを見たときに最も「古さ」を感じるように思います。

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なので例えば10年後の2033年の感覚で2013年のファッションを振り返ると、全く違う感想になるはずです。

2023年の感覚で「絶対にナシ!」と思うファッションでも、2033年の感覚だと「格好良い!」と思うかもしれません。

ファッションは時代を映す鏡です。

なので、「古さ」が出るのは当たり前。

後で振り返ったときに「古く」なるからこそファッションである、とも言えるでしょう。

 

タンスの肥やしにならない服選びの方法

とはいえ。

いち個人として考えると、ある程度のお金を出して買った服が翌年にはもうタンスの肥やしになってしまう、なんてことを避けたいという気持ちもあります。

そんなときは、先程挙げた普遍性があるファッションの特徴に従い、シンプルでベーシックなデザインで、落ち着いた色の服を選べば、タンスの肥やしになる可能性はかなり低くなると思います。