少し前に、ツイッターのタイムラインに流れてきた、こちらの記事がとっても面白かったので、ご紹介します。
スタイリスト馬場圭介氏のインタビューです。
大御所スタイリストですね。
この記事は、ベイクルーズのサイトに掲載されています。
馬場圭介氏のインタビューのところどころに、ベイクルーズの商品が挟み込まれているという内容です。
ですが、単なる商品PR記事とは言えない、興味深い内容だったので、特に僕が感銘を受けたポイントをピックアップしてご紹介します。
バンドTシャツはデザインで選んだっていい
まず、ファッションとカルチャーについて。
馬場圭介氏は特にイギリスのカルチャーに造詣が深く、イギリスで買い付けられたヴィンテージアイテムを扱うショップも手掛けるほど。
そんな背景があるので、「ファッション=カルチャー」という考えの方なのかな、なんて勝手に思っていたら、全然違いました。(強調引用者以下同)
ヒップホップのファッションをするのなら、ヒップホップを聴いてなきゃいけない、文化に詳しくないといけないってわけではないと思う。
だって流行が変わってファッションが変わるたびにバックグラウンドを脳内に入れてたら、キリがないでしょ(笑)。むしろ、ファッションとして楽しむんだったら、細かい情報は知らないほうが凝り固まらずに、面白い着こなしができるかもしれないとさえ思うよ。パンクスのファッションだって、もう街にもライブハウスにもパンクスはいないわけだから、今の若い子たちが服装を真似するんだったら想像でやるしかないわけだしさ。
「流行」で洋服を選ぶことに対して、否定的な想いは一切ないね。ロックファッションが流行っててバンドTシャツを着たかったら、デザインで選んだっていいわけだし。そのバンドを聴いたことがないとしても。
以前受けたメルカリマガジンのインタビューでもお話しましたが、僕は自分のファッションの背景に自分の音楽がないことが、長年ちょっとしたコンプレックスでした。
ですが、馬場圭介氏はもっと気楽にファッションを楽しめばいい、という考えのようです。
まあファッションなんてのは、生活の一部でしかないからさ。ファッションを仕事にしてる俺がこんなこと言っていいのか分からないけど(笑)。そもそも流行と自分が似合うものって、基本的には全然違うわけじゃん。流行を上手に取捨選択しながら、自分に似合うものを見つけていけたらいいよね。たまに乗っかったり、逆らってみたりしてさ。でも、いい歳して時代に合わせて流行ってるものしか身につけない、会うたびにコロコロ服装が変わる、みたいな人には「お前、それ似合ってねーだろ」って言いたくなるね(笑)。
流行とサイズ感
お次は流行との付き合い方について。
近年はルーズシルエットが人気。「サイズ感が「流行」に一番左右される要素だが、男は自分の身体にあった洋服を着てるほうがカッコいい」とのこと。
アイテムや色使いにも当然流行があるけど、サイズ感が「流行」に一番左右される要素だと思う。今はダボダボしたのが流行っているけど、流行は循環するものだから、だんだんとまた細くなっていくんじゃないかな。結局、極度にデカかったり小さかったりするんじゃなくて、男は自分の身体にあった洋服を着てるほうがカッコいいと俺は思うね。
また、インターネットやSNSが浸透したことにより、それぞれの都市においてのファッションの固有の文化がなくなった、という指摘もされています。
個性がないことが個性、みたいな時代になってきてるよね。ロンドンもニューヨークも東京も、ファッションにおいて固有の文化、ってのは今はもう無いかなって思う。全世界、どこに行っても都心部はみんな同じようなファッションをしてるね。多分ITの発達とかが理由だとは思うんだけど、こればっかりは仕方ない。
成金のファッションがダサい理由
さてここからが、僕が一番感銘を受けた部分。思わず膝を打ちました。
お金がないなりに欲しいものを買おうとするときに、価値観や経験、ちょっとした知識が必要になってくるんじゃないかな。そういうものをすっ飛ばしてるから、成金のファッションはダサいんだよ(笑)。彼らには迷いがないから。ひとつだけ見て「これでいいや」なんて決めるんじゃなく、3つ4つ見て、比べないと。そうすることで自分に似合うものや好みが分かってきたり、別の情報が思いがけずに入ってきたりするんだよね。
この一節をツイートすると、結構な反響がありました。
「お金がないなりに欲しいものを買おうとするときに、価値観や経験、ちょっとした知識が必要になってくるんじゃないかな。そういうものをすっ飛ばしてるから、成金のファッションはダサいんだよ(笑)。彼らには迷いがないから」←なるほど。https://t.co/P7aaFMxur2
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」発売中 (@yamada0221) 2022年11月7日
ファッションに興味を持ち出した10代の頃から、今に至るまで、「欲しいな~」と思ったものを全部手に入れてきた訳ではありません。
というか、「欲しい」と思っても、手に入れられなかったモノのほうが圧倒的に多いでしょう。
もし、大金持ちだったら自分のファッションはもっと充実するんだろうなぁ、なんてことを漠然と思ったこともあったかもしれませんが、馬場圭介氏によればそれは完全に間違いのようです。
そう言えば。
ラグジュアリーブランドが多数出店している百貨店に行くと、全身ラグジュアリーブランドで固めている、いかにもお金持ちのオジサンを見かけることがあります。
が、そういうオジサンを見て格好良いと思ったことは一度もありません。
おそらく、そういうオジサンには迷いがないのでしょう。
迷いがスタイルをつくる
馬場圭介氏はこう続けます。
「これもいいな~。どっちにしようかな~」なんてさ。ファッションは、迷うからこそ楽しいんだよね。迷って、迷いに迷って、自分で決めて買ったものには自然と愛着も湧いてくる。俺なんて、もう着やしないのに捨てられない洋服ばっかり持ってるよ(笑)。
つまり、迷いがスタイルをつくる、ということでしょう。
限られた資金で、試行錯誤して服を買う。
同じ服でも、どの色がいいか。
どのサイズがいいか。
沢山のお店を歩き回り、試着を重ね、手持ちのアイテムとの相性をシュミレートし、どんな場所に着ていくか、どんな人と会うときに着ていくかを考える。
更に着てみた印象を人に聞いたり、アイテムやブランドのことを自分で調べたりと、吟味に吟味に重ね、ようやく選ぶ一着。
そうやって、迷いに迷い続けることで、徐々に自分のスタイルが形成されるのでしょう。
スタートラインとしての「普通服」
僕の著書「結局、男の服は普通がいい」では、シンプルでベーシックなデザインの「普通服」を提案しています。
「普通服」はいわば、スタートラインです。
馬場圭介氏と同じく、僕も長い年月をかけて試行錯誤しないと、自分のスタイルなんてものは出来上がらないと思っています。
迷うから、楽しい。
お金がないから、楽しい。
イセタンメンズで1,000万円爆買するよりも、リユースショップで迷いに迷って3,000円で買った服のほうが、格好良くなれると信じています。