山田耕史のファッションブログ

ファッションは生活であり、文化である。

白が「清潔の色」である理由。

 f:id:yamada0221:20200824112901j:plain

「清潔感」がある人を嫌いな人はいないでしょう。書籍「結局、男の服は普通がいい」でも、最初に触れているのは清潔感について。

f:id:yamada0221:20200309113250j:plain

これまで、当ブログでも清潔感についての記事は何度も書いてきました。 

www.yamadakoji.com

 

白=清潔の色

その中で「清潔感」が出るアイテムとしてご紹介しているのが、白シャツや白靴下などの「白」のアイテム。

www.yamadakoji.com

www.yamadakoji.com

白=清潔の色ということに異論を唱える人はまずいないでしょう。

では、なぜ白=清潔の色なのか?これまで疑問にすら思っていませんでしたが、先日の記事でもご紹介した書籍「黒の服飾史」に、その答えがあったのでご紹介します。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

黒の服飾史 [ 徳井 淑子 ]
価格:3520円(税込、送料無料) (2020/8/20時点)

楽天で購入

 

www.yamadakoji.com

 

風呂に入らなかった17世紀のヨーロッパ人

話は17世紀のヨーロッパまでさかのぼります。当時は身分の上下を問わず、入浴の習慣はありませんでした。1601年に誕生したルイ13世が初めて全身に水を付けたのは7歳の頃。生まれたときは香油の混じったワインで体を拭いただけだそうです。

なぜ、当時のヨーロッパ人は風呂に入らなかったのか。水が汚染されていたから、という理由もありましたが、それ以上に大きかったのが疾病対策です。

当時はペストがたびたび流行していました。黒死病とも呼ばれるペストは、治療が行われなかった場合の致死率はなんと60%から90%。14世紀に起きた大流行では、当時の世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡したと推計されています。

ja.wikipedia.org

実際にはペストはネズミ、イヌ、ネコなどを宿主とし、ノミが媒介しヒトに伝染しますが、16世紀に著名な医師が「入浴によって皮膚の毛穴が開き、そこからペスト菌が侵入する」という説を唱えてから、ヨーロッパの人びとから入浴の習慣がなくなりました

 

清潔感がステイタスシンボルになる

とはいえ、身体の清潔を保つことは必要です。

では、彼らはどのようにして清潔を維持しようとしたのか。そのひとつは、日に何度となく繰り返される下着の交換である。もちろんこれは、多くの下着を所持できる上層階級の人びとに限られる。この時代にフランスの香水産業が発達したのも、体臭を消す香水が清潔を演出する手段であったからである。そして、黒と白というモノクロームの配色もまた、清潔という観念の具体化として意味をもったように思われる。

(強調引用者)

入浴ができないと、下着はすぐに汚れてしまいます。僕も昔、怪我をしてしばらく入浴できなかったことがあったのですが、服がすぐに汚れてしまうことに驚きました。

ですので、身体を清潔に保つことを目的に下着を交換する場合、相当数の下着が必要だったと思われます。

当時のヨーロッパの人びとが着用していた下着には、リネン素材が用いられていました。日本語では亜麻と表されるリネンは、亜麻色という言葉もある通り、ベージュ色です。
Cadeauya【 リネン トランクス 】生成り(ナチュラル)M/L/LL ユニセックス
¥2,970

(記事執筆時の価格です)

f:id:yamada0221:20200824112857j:plain
|画像タップで楽天市場商品ページへ|

17世紀当時、リネンを白に漂白するために相当な手間が必要でした。どれだけの手間か、その手順が記されているので引用します。

最初に布をぬるま湯に浸し、小麦粉とライ麦の麩を入れた水に注いで、泡が浮いて発酵が始まるまで1日近く、そしてあくが沈殿するまで2日ほどかかる。これによって分離したゴミを取り除くためによく洗い、水車で打ちなめすなどの作業を経て草地の上に広げて乾かし、次の工程に入る。沸騰した湯に灰を入れてかき混ぜ、いわば「洗剤」というべきものをつくるのだが、液体が澄み切り、洗剤ができるまで6時間かかる。この洗剤を人肌の温度に温めて、先の乾かした布の上に注ぎ、木靴をはいた男が踏みつけて洗濯をする。水を捨てて、再び熱いお湯を入れ、同じことを6〜7時間繰り返す。作業が終わると、再び草地に運んで乾かすのだが、最初の6時間は水を注いで乾かないようにする。以上の洗濯と乾燥の作業は10回から16回繰り返さねばならない。そして酸っぱくなった牛乳を布に注ぎ、男が踏みつけ、5〜6日かけて発酵させ、発酵の終わる直前に布を取り出して、それを流水のなかでたたき、また水車で押しつぶしながら水流で洗う。その後、石鹸で洗い、再び洗剤を弱くして洗濯、乾燥、酸っぱくなった牛乳の作業を繰り返す。そして、最後にラピス・ラズリなどの青い顔料、あるいはインディゴなどで青味付けを行う。

どうですか、この手間。これだけの手間がかかっている白の下着は相当高価だったことは、簡単に推察できます。
BVD メンズ スタンダードブリーフ 綿100%
¥608

(記事執筆時の価格です)
f:id:yamada0221:20200824112853j:plain
|画像タップで楽天市場商品ページへ|

 

 

清潔感がファッションになった

そんな高価な下着なら、見せびらかしたくもなるでしょう。

香油で汚れを落とし、下着を頻繁に交換して清潔を維持することができるのは、財力のある上層階級のものに限られていた。ゆえに清潔であること、あるいは清潔であるようにみせることはステイタス・シンボルとなる

(強調引用者)

衣服の袖や見頃、あるいはズボンに切り込みを入れ、下に着ている衣類の布を引き出して見せる「スラッシュ服飾」が流行するのです。つまり、清潔感がファッションになったということです。

白い下着はステイタスシンボルなので、その白さを際立たせるために黒い服が着られるようになります。

切れ目を入れて下着をみせるのも、黒い服にリネンやレースの白さを対比させるのも、布を白くすることが難しい時代にきれいな白を強調して、それを着ることができる地位と財力を誇示する行為であった。清潔を演出する黒と白のモノクロームもまた、社会的な権力や権威の誇示につながったということになる。

ちなみに、当時は布を漆黒に染めることも難しく、黒い布もかなり高価でした。ですので、真っ白と真っ黒のコントラストがはっきりとした服を着ていることは、相当なステイタスの誇示になったのです。

 

ファッションの意識の変化

と、このような由来から、白に清潔の色であるというイメージが定着し、それが現在まで至っています。

今回の記事を書いていて強く感じたのが、当時はファッション=地位や財力の誇示だったということ。

現代の日本のファッションにもそういった要素がない訳ではありませんが、特に近年はかなり薄れてきているように思えます。ここらへんの意識の変化なんかも、深堀りして考えてみたいですね。

この記事があなたのお役に立てれば幸いです!