少し前のこちらの記事。主に90年代に、「普通の人」がどこで服を買っていたか、と言う内容です。
こちらの記事でご紹介したツイートの中に、いくつか「昔の服は高かった」というような指摘がされています。
ユニクロの普及以降、景気の悪化や止まらぬデフレもあって、何となくイメージされる「普通」の価格帯が劇的に低くなっちゃいましたけど、あのころユニクロ級の価格の服はファッションに無頓着な人が主な購買層であって、「普通」の服の価格帯って、決して安価ではなかったように思います。
— Euphonica 横浜仲町台の洋品店 (@Euphonica_045) May 17, 2022
「洋服に金をかけずオシャレする」なんてのはユニクロ以降に生まれた概念なのに、みんな忘れてしまっているらしい。
— 齋藤 (@saito_d) 2022年5月17日
1996年POPEYEで検証する90年代の服の値段
では、実際はどうだったのでしょうか?
僕の手元に、1996年9月10日号のPOPEYEがあります。
特集は”賢く、安くオシャレする。”
↓の記事でご紹介した、吉祥寺パルコで開催されている古本市で手に入れました。
”信じられない安い服でキメる”などの煽り文句を並べているくらいですから、相当安い服が集められていることが期待できそうです。
ということで、今回は、【ファッションアーカイブ】スピンオフ企画として、1996年の服と、2022年の服の価格を比較してみましょう。
こちらがその特集ページ。
”感激!安くて、オシャレ。全身で2万円台の極意。”とあります。
初っ端に登場しているのが、日本のアメカジショップの草分けでもあるハリウッドランチマーケットの7,800円のスウェットシャツです。
現在「安い服」を扱うブランドは無数にありますが、やはり一番の代表はユニクロでしょうか。ユニクロのスウェットシャツは2,900円。
服としての諸々の要素は排し、単純化して値段だけを見ると2022年の服の値段は1996年の4割以下という出だしになりました。
https://www.uniqlo.com/jp/ja/products/E444966-000/
次のページ。
ハリウッドランチマーケットの系列ブランドであるオクラのボーダーシャツは5,900円。
ユニクロのボーダーTシャツは1,990円と、約3分の1の価格。
https://www.uniqlo.com/jp/ja/products/E453565-000/
信じられないくらい、安い服
続いてのタイトルは、表紙にも登場していた”信じられない安い服でオシャレができる。”
表紙でもちょっと引っかかったんですが、これは、”信じられない「くらい」安い服”という意味でしょうか。
まず紹介されているんはシャツ。左端、チェック柄のシャツの説明文には”なんと!びっくりの500円は、古着屋ならではの超チープ・プライス”。
そもそも古着はダメージなどがある商品や、極端に人気がない商品の価格はあってないようなものなので、価格比較の対象外にすべきかもしれません。
ですが、”なんと!びっくりの500円”とそんなに変わらない価格である、700円均一の下北沢の古着屋さんが、2022年の今、若者から大きな支持を集めています。
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古着以外のシャツの最低価格は7,800円。
https://www.uniqlo.com/jp/ja/products/E450259-000/
3,800円のチノパンが”スーパーチープ”
次のページはワークパンツ。
新品のパンツに混じって紹介されているのはやはり古着なんですが、ここでのコピーは”古着屋のスーパーチープなチノパン3800yen〜4800yen”。
しかも、”チノパンって着古した風合いがカッコイイから、どうせなら古着を買うのも手かも”と、古着を妥協の選択肢として捉えているような印象を受けます。
2022年の今なら、ピンッピンの新品のチノパンがユニクロで2,990円で買えるのはご存知の通り。
https://www.uniqlo.com/jp/ja/products/E433335-000/
この後のページを見ても、1996年の「安い服」は2022年のユニクロのだいたい2〜3倍くらいが相場のようです。
1997年のジャスコで売っていた服の値段
この特集でピックアップされている服は、あくまでもファッション誌POPEYEの誌面を飾る服。
なので、もしかしたらオシャレな服だから高いのでは?という疑問が生まれるかもしれません。
そこで、もうひとつ資料としてご紹介したいのが、1997年1月号のBoonです。
1997年のBoonを読んでいこうかな、と。 pic.twitter.com/gV8HWPtBQL
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」発売中 (@yamada0221) 2022年6月18日
この号のBoonに、ジャスコで展開されているカジュアルショップ、キャンパスの広告が掲載されているんですが、この広告の商品もスウェットで3,900円、ダウンジャケットが17,800円と、2022年のユニクロと比べると高価です。
ブログでもピックアップした、ユニクロ登場前はどこで服を買ってたか問題。
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」発売中 (@yamada0221) June 18, 2022
こちらはジャスコのカジュアルショップ、キャンパスの広告。
ノースフェイスやベアーのダウンは1.9万円、フィラのスウェットは5800円など、ユニクロよりかなり高価。 pic.twitter.com/pkLDwUo4Cg
つまり、POPEYEの「安い服」特集で紹介されている商品は、当時の感覚では充分安かったということです。
買物名人14人の激安指南
さて、1996年9月10日号POPEYEの誌面に戻りましょう。
続いてのページは”買物名人14人の激安指南「これ、いいでしょ。安かったんだ!」”という、著名人のお買い物紹介企画です。
トップバッターは真心ブラザーズの倉持陽一さん。
名曲、サマーヌードは夏になると必ず聴きたくなります。
他には、シノラー時代の篠原ともえさん。
当時、EAST END×YURIで大人気だった市井由理さん、空耳アワーの安齋肇さん。
ボキャブラ天国で活躍していた爆笑問題のふたりなどが”激安指南”をしています。
激安指南とは正反対の”高いもの”
そんな中、いわゆる「低価格で買ったモノの紹介」とは違う内容の人もちらほら見られます。
例えば、こちらのクリエイティブプロデューサーのSATORUさんは、”感性を磨くためにイイものは大切です。どんなに高いものも時が経てば値段が上がるから、定価で買うだけでもうお買い得だよ”と、コムデギャルソンの15万円のスカジャンなどを紹介しています。
フリーダム・スイートの山下洋さんは”お買い得かどうかは、自分が思うものだからね”と前置きしながら、”安いものってすぐ壊れるじゃん。買った物は大事にするより馴染ませたいから。そう考えると良質の高い物って、得でしょ?欲しいもんだし、俺は満足”とコメントしています。
”買物名人14人の激安指南「これ、いいでしょ。安かったんだ!」”という特集に、こういったいわば激安指南とは正反対のコメントが掲載されているところに、90年代らしさがあるのではないかと感じました。
多様性が90年代の価値観
実は、冒頭でご紹介した”感激!安くて、オシャレ。全身で2万円台の極意。”の特集でご紹介していないページがあります。それがこちら。
この画像の横にある、”安くていいモノより、安くて気に入ったモノ。”というコピー。ここに、90年代の価値観が現れているような気がします。
「安い」という価値は誰にとっても変わりませんが、何を気に入るかは人それぞれ。
つまり、90年代は今よりも多様性に重きが置かれていたのではないでしょうか。
多様性が重視されていたからこそ、90年代終盤の日本のストリートファッションは非常に個性的でしたし、個性的だったからこそ、20年以上の年月を経た今でも世界中にフォロワーがいるのではないかと思います。
90sサイバー系…ピンタレスト見てたらほんとキリない pic.twitter.com/8mYA8L0VZo
— 山田耕史 書籍「結局、男の服は普通がいい」発売中 (@yamada0221) 2019年6月19日