山田耕史のファッションブログ

ファッションは生活であり、文化である。

2163億円はブランドの値段ではなく、シュプリームが発信してきた”地元カルチャー”の価値。

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昨晩、子供たちの寝かし付けを終えてツイッターを見ると、シュプリームがVFコーポレーションに21億ドル(2163億円)で買収されたという衝撃的なニュースが飛び込んできました。

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シュプリームは1994年にニューヨークで創業。当初はスケーターブランドの商品を取り扱うスケートボードショップでした。

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現在は服をはじめとしたオリジナルのファッションアイテムが品揃えの中心ですが、スケートボードグッズは変わらず販売し続けています。

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これまで、数多くの有名ブランドとのコラボレーションを行ってきました。スポーツブランドやアウトドアブランドなどのスケートボードと関係性の深いブランドだけでなく、コムデギャルソンやヨウジヤマモト、ジャンポール・ゴルチエなどのデザイナーズブランドとのコラボレーションも多数。

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特に2017年のルイ・ヴィトンとのコラボレーション商品の発売時は、青山から代々木公園までの行列ができるなど、今もなお最も高い人気を誇るストリートブランドと言えるでしょう。今回の買収の報道もツイッターのトレンドに入っていました。

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VFコーポレーションはカジュアル版LVMH

シュプリームを買収したVFコーポレーションはアメリカの大手アパレル企業。傘下ブランドには、コムデギャルソンやマルタン・マルジェラ、グッチなどの名だたるファッションブランドともコラボレーションをするなど名実ともにナンバーワンアウトドアブランドであるノースフェイスをはじめ、ヴァンズやレッドキャップ、イーストパックなどの人気カジュアルブランドがずらり。

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ルイ・ヴィトンやディオール、ジバンシィなどの多数のラグジュアリーブランドを傘下に持つLVMHグループのカジュアル版のような企業です。

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シュプリーム独自の文化と独立性

VFコーポレーションのサイトでは、トップページでシュプリームの傘下入りを大々的に報じ、 VFコーポレーションのCEOと、シュプリームの創業者であるジェームス・ジェビアコメントも掲載されています。

こちらが VFコーポレーションのCEOのコメント。(グーグル翻訳以下同)

SupremeをVFファミリーに迎え、すべての利害関係者に価値を創造しながら、数十年にわたる関係を構築できることを嬉しく思います。 VFは、この文化的ライフスタイルブランドの本物の遺産を尊重すると同時に、当社の規模と専門知識を活用して持続可能な長期的な成長を可能にする理想的なスチュワードです。

こちらがジェームス・ジェビアのコメントです。

 The North Face、Vans、Timberlandなど、長年にわたって協力してきた優れたブランドの本拠地である世界クラスの企業であるVFに参加できることを誇りに思います。 このパートナーシップは、私たちの独自の文化と独立性を維持しながら、1994年以来と同じ道を歩むことを可能にします。

”文化的ライフスタイルブランドの本物の遺産を尊重”

”私たちの独自の文化と独立性を維持しながら、1994年以来と同じ道を歩む”

と、両人が文化について触れていることから、いかにシュプリームというブランドにとって文化が大切であるかが伺えます。

 

シュプリームが世界に発信したニューヨーク

こちらは当ブログの3年前のシュプリームに関する記事です。

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この記事でご紹介しているのは、2017年10月号のBRUTUSに掲載されていた「なぜファッション界がスケーターに憧れたのか?」という、野村訓市さんと原宿のショップ、プロップスストアのディレクターの土井健さんとの対談(ちなみにこの号のBRUTUSは超オススメ。今もAmazonで新品が購入可能です)。

BRUTUS(ブルータス) 2017年 10/1号[場所 人 服 似合うの決め手。]

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上掲のシュプリームとルイ・ヴィトンのコラボレーションが発表された後の、世間的に最もシュプリームが話題になっていた時期ということもあり、”なぜスケートをはじめとするストリートファッションがここまでの影響力を持つようになったのか”が対談のテーマです。

土井さんはシュプリームについて、こう語っています。(強調引用者)

サポートっていうところで言うと、シュプリームはその概念を体現してると思っていると思うんです。マーサ・クーパーやラメルジーのようなローカルヒーローと手を組んでアイテムを作ったり、グラフィティライターがトレインヤードに忍び込むときに使うボルトカッターを作ったりすることで、地元のカルチャーをフックアップして世界に示すやり方をしています。最近はルイ・ヴィトンとコラボレーションをして、アレ?と思っている方々がたくさんいると思いますが、あの事例もシュプリームはルイ・ヴィトン=メゾンブランドではなく、ルイ・ヴィトン=パリという地域を汲み取り、世界にニューヨークらしさを発信したと考えています。

マーサ・クーパーはグラフィティ・ストリートカルチャー専門の写真家。

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ラメルジーはグラフィックや彫刻なども手掛ける多彩なラッパーです。

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野村さんもこう語っています。

多分小さいところでは、そういったサポートしているブランドやお店はあるだろうけど、シュプリームみたいな規模でやっているブランドはないね。

つまり、地元であるニューヨークのカルチャーを発信してきたことが、シュプリームの文化であり魅力であるということでしょう。

 

スケートボードは地元に根ざしたカルチャー

サブカルチャーマガジン、アイスクリーム2020年3月号の特集は「2020 in Skateboarding of Portraits -スケートカルチャーの未来へ送る言葉-」。

EYESCREAM(アイスクリーム)2020年03月号
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スケーター、フォトグラファー、ショップオーナーなどのニューヨークのスケートボード関係者へのインタビューが特集の中心ですが、ストリートファッションの隆盛や、特にスケートボードが2020年の東京オリンピックで正式競技になったことなどから、スケートボードの人気が世界的に高まっていることに対しての関係者の思いが主題となっています。

インタビューを読む限り、多くの関係者はスケートボードがビッグビジネスになっていくことに対して、あまり良い感情を持っていないようです。

スケートがオリンピックの種目になるのは好きじゃない。オリンピックは欲張りなギャングスターたちが運営しているものさ。例えば、スケートにパッションがない大手カンパニーの運営組織であるとか。彼らは金儲けのことしか考えていない

と語るのは、ストリートとスケートの歴史を記録し続けていた写真家、アリ・マルコボロス。

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また、少年たちによるスケートボードチーム、Homies Networkのメンバーはスケートがオリンピック競技になることに対してこう語っています。

…かなりたくさんのお金が絡んでるよね

ダサい!オレたちはリアルなスケートのルーツであるアート的要素を大切にしていきたい。オリンピックのスケートは別ものだよ。

スケートは仲間とローカルなレベルだけで

そうそうローカルだけにキープしろよ

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少年ならではのピュアな気持ちが感じられる言葉ではありますが、彼ら以外の関係者もスケートボードはあくまでもストリートのもので、地元(ローカル)に根ざした文化(カルチャー)である、という思いは強いようです。

 

文化を発信し続けてきたことに価値がある

そして今回、大手企業の傘下入りすることで、シュプリームの文化が失われる、あるいは薄まるという懸念を抱くシュプリームの支持者は少なくないでしょう。

”文化的ライフスタイルブランドの本物の遺産を尊重”

”私たちの独自の文化と独立性を維持しながら、1994年以来と同じ道を歩む”

と、今回の買収に際してのコメントで、文化という言葉が多用されていたのは、地元ニューヨークの文化を発信し続けてきたことがシュプリームの価値であるという認識を明らかにし、そしてそれが失われることがないと強調したかったからだと思います。

今後、VFコーポレーション傘下のブランドとして運営されるシュプリーム。その文化は変わるのか、変わらないのか。現在最も”価値”があるストリートブランドの今後が楽しみですね。

 

以下余談です

前々から挑戦したかったスケートボード。近所の公園はどこもスケボー禁止で諦めていたんですが…

この記事があなたのお役に立てれば幸いです!