山田耕史のファッションブログ

ファッションは生活であり、文化である。

「軍服は悪性の美」。デザインの視点から見たナチス・ドイツの戦略。

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図書館で偶然見つけたこちらの本。

 

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RED ヒトラーのデザイン [ 松田行正 ]
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概要をAmazonから引用します。 

ヒトラーは、もっともデザインを知る独裁者だった-ー。
多くの人々を煽動したナチス・デザインに、
グラフィック・デザイナーの松田行正が迫る。
120点以上の映画と、膨大な図版を導き手に解剖する、
ヒトラーのデザインの特質とは。

ナチス・ドイツをデザインの視点から紐解くという、デザイン好きであり、歴史好きでもある僕の興味をそそる内容です。

 

モダニズムの手法を先取っていたヒトラー

 印象深かった点、そしてファッションに関する点をいくつかご紹介します。

まずは、ナチス・ドイツの象徴として誰もが知るカギ十字。ウィキペディアのナチス・ドイツの画像にもカギ十字が使われています。

ja.wikipedia.org

著者はヒトラーをナチス・ドイツのクリエイティブディレクターになぞらえ、そのデザイン戦略の象徴とも言えるカギ十字をこう評しています。

彼のデザイン戦略は極めてシンプル。カギ十字を、単なるシンボル・マーク以上の、絶対的な権力の象徴とすることだった。

カギ十字には十字からくる「聖」のイメージはあったとしても、ほかの具体的なイメージは一切ない。そこが重要である。あとでいくらでも意味がつけられるので強権国家にはきわめて都合がよい。しかも、四五度回転していることで、傾いた十字、という不吉な予感も孕んでいる。

カギ十字にはヒトラーによるモダニズムの手法の先取りが感じられる。現代美術の大きな特徴は、抽象化されてシンプルになったものをひたすら巨大に描くこと。ヒトラーが巨大な建造物を求めたのと通底してくる。それと、イメージを繰り返すこと。アンディ・ウォーホルがキャンベル・スープ缶をひたすら並べた作品などで流行った手法だ。ヒトラーは、それをウォーホルより数十年前に徹底的にやった。

こちらが1960年代に発表された「アンディ・ウォーホルがキャンベル・スープ缶をひたすら並べた作品」。

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赤地とカギ十字の印で国中を埋め尽くさんばかりに過剰に繰り返した。党大会でも旗の乱舞はもちろん、腕章、建物のバナー、文房具から紙コップまで日用品のあらゆるもの、徽章類、レターヘッド、公式文書、軍服などの軍装品、銃などの兵器。

それだけではない。日曜人はカギ十字入りのものを選ばなければいいだけだが、よりプライベートな場である、結婚式場、教会にまでも浸透させた。ナチ信奉者には高揚を、反対者には諦めを促すような、一種の監視体制である。

確かに、街がこんな風にカギ十字一色になってしまっていたら、ナチスに反対している人でも諦めてしまいそうになるかもしれません。

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ナチス・ドイツの軍服がスタイリッシュな理由 

詳しい内容は忘れてしまいましたが、ファッションデザイナーが「ナチス・ドイツの軍服をデザインした人は天才だと思う」 というような発言を目にしたことがあります。

また、山本耀司もこのように発言しているようです。

 ナチスの親衛隊の軍服がこちら。確かにスタイリッシュです。

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ナチス・ドイツの他の軍服も洗練されたデザイン。

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これに対し、同じ第二次世界大戦時のアメリカ軍の軍服がこちら。これはこれで格好良さがあるのですが、合理性重視のアメリカらしさが出ているのか、スタイリッシュかどうかと言えば、ちょっと違うような気がします。

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筆者はナチス・ドイツの軍服のデザインポイントをこう評しています。

そのデザインポイントは細身。基本的にデブには似合わない。

ただし、細身の軍服にはリスクも多い。戦闘時の動きやすさ、戦いやすさという点ではアメリカ軍の軍服のほうがはるかに上だろう。行動時の利便性を犠牲にしてまで見た目の威厳・美に重点が置かれていたとも言える。

最近はゆったりとしたシルエットの服が人気ですが、なんだかんだで細身のシルエットのほうがスタイリッシュに見えるというのは、普遍的な原則のようです。

ちなみに、親衛隊の黒の制服は汚れが目立ちやすかったようで、戦地に赴く親衛隊員の軍服には汚れが目立ちにくいグレーが用いられるようになったそうです。デザイン性と実用性の両立が難しいのは今も昔も変わらないんですね。

 

批判を浴びたコムデギャルソン

かなり意外でしたが、本書に僕の大好きなコムデギャルソンのエピソードが登場しています。

一九九五年一月二七日、奇しくもアウシュヴィッツ開放五〇周年の日にパリで開催されたショーで、コムデギャルソンは、上下ともやや太い縦ストライプの服(パジャマ?)を発表した。しかもそれを着ていたモデルの頭は丸刈り、一見してナチ強制収容所のユダヤ人収容者を思い起こさせた。

過激な服のデザインで鳴らすコムデギャルソンは、ショーということでより過激な戦略をとったと思われる。が、会場からは当然ながらブーイングが起きた。コムデギャルソン側は、こんなにバッシングされるとは想定外だったのだろう(川久保玲さんは誤解だと言っていた)。ヨーロッパのナチ嫌悪の深さを読み違えていた。

しかも、このパジャマのストライプの幅や間隔といい、ギャルソン側が囚人服を参照していたのは間違いなさそう。もちろんこのパジャマの製品化は封印された。

こちらが当時の新聞と思われる画像です。「A Bad Fashion Statement」と題されていますね。コムデギャルソンにこんな事件があったとは、全く知りませんでした。

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http://hungtime-times.com/hung_time_writers/2011/03/common-sense.html

近年ではラグジュアリーブランドのロエベも似たような服を販売し、批判を受け謝罪し販売を停止しています。

www.instagram.com

www.huffingtonpost.jp

ちなみに、本書ではファッション以外にタイポグラフィや建築などのデザイン視点を中心にしながらも、ナチス・ドイツがどういった政策を取ったのかもある程度わかるようになっています。が、ナチス・ドイツの政策を詳しく知っていくと、胸糞が悪くなる人も多い(僕もそうです)と思うので、ご注意を。

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