引き続き、ファッションデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドの自伝から、興味深かった点をピックアップしてご紹介します。
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ジーン・クレールが語った「両足のない少年」の話
この自伝についての記事は、ひとまず今回でお終いにするつもりです。
最後にご紹介したいのは、ジーン・クレールの言葉です。
https://www.pinterest.jp/pin/423619908673768001/
ファッション誌「VOGUE」「GQ」などを手掛けた、世界的なファッションディレクター、ジャーナリストであるジーン・クレール。
こちらはジーン・クレールが提案するコムデギャルソンオムドゥのスタイリングについての記事です。
アメリカ人であるジーン・クレールは、ニューヨークやロサンゼルスで、伝説的なブティックであるGranny Takes a Tripの運営を手掛けた後、イギリスに渡り、ヴィヴィアン・ウエストウッドと共に活動するようになります。
少し長いですが、とても良いお話なので、そのまま引用します。
実際、彼女の熱狂的ファンには、自分のことをどこかふつうとはちがっていると感じている人間も多い。1977年、マルコムとヴィヴィアンの関係が最後の決定的な局面を迎えようとしていたちょうどその時期に、ヴィヴィアンの友人でショップのマネージャーでもあるジーン・クレールがサーリー・コートの空き室に引っ越してきた。そして、パンク全盛時代にショップの店員だった彼は独自の見解を僕に伝えてくれた。彼の話は、吐いて捨てるような口調で語られるいつものパンクの伝説とは趣がちがっていた。
「店にやって来る若者たちは、大半が、お世辞にも見栄えが良いとは言えなかった。 ココ・ロシャみたいなモデル体型じゃなかったね。そりゃ、みんながみんなリンダ・エヴァンジェリスタとはいかないさ。社会にうまく順応できないタイプとでも言えばいいかな。だいたいが太りすぎか痩せすぎだった。
身体的障害のあるやつもいたよ。両足がない若い男の子も来てたっけ。その子は常連さんだった。木製の義足をつけてたな。その子が店に入ってきて床を歩くと、こつこつ音がするんだ。彼のことは今でもはっきり覚えているよ。あるとき、店に入ってきたら、そいつがゴールドのスタッズが一面についたハーフ丈の黒いレザーのパンツをはいていたんだ。歩きにくいのかかなり格闘してたよ。 あの子にとっては生きることが格闘の連続なんだろうな。そういう子がヴィヴィアンの店を出ていくときは、 自分が他のやつとはちがう特別でかっこよい男なった気分になっているんだ。受け入れられたという安心感がそうさせるんだろうね。 パンクが、というか、ヴィヴィアンがすごいのは、なんでも実現してくれるところなんだ。パンク族は自分を受け入れてほしいという気持ちが強いからね。そして、僕たちは当たり前のようにその願いに応えてきた。負い目をもった若者というのは、だいたいいじめにあう。社会の不良品扱いされてね。だから、そういう人間がヴィヴィアンの店に来て、なにか自分にとってお守りになるようなものを買って帰っていくんだ。世間は僕たちのしていることに対して常に軽蔑的だったし、嫌悪感を抱かせるものだという一面的な見方しかしてくれなかった。でもね、若者は、 たとえば両足のない少年は、店に入ると疎外感が消え、店を出るときには、自分も立派な社会の一員であり、みんなと同じふつうの人間なんだという気持ちになれるんだ。そういう経験ってめったにできるものじゃない。でも、ヴィヴィアンはわかっていたんだ。自分はこの世に生きている人間と同じ価値をもつ、というか、かけがえのない存在なのだと思わせてくれる。それって、めったにもらえない貴重な贈り物だよ。パンクにはそれができた。ファッションにもその力があるんだ。なかなかできることじゃないよ。ヴィヴィアンはいつだって平然とやってのけるけど」
パンクが持つ力
このエピソードを知って、僕が思い浮かべたのが、ザ・ブルーハーツの名曲「パンク・ロック」です。
https://www.uta-net.com/song/6507/
「僕 パンク・ロックが好きだ」
「やさしいから好きなんだ」
と歌う、甲本ヒロト。
上掲の記事でもご紹介しましたが、元々は不良の集まりで、ドラッグや暴力などのエピソードが豊富過ぎるセックス・ピストルズをはじめ、パンクに対して「なんか怖い」というイメージを持っている人も少なくないと思います。
https://www.pinterest.jp/pin/582653270556605565/
ですが、ジーン・クレールが語っているように、甲本ヒロトが歌っているように、パンクには若者に生きる力を与える存在なのです。
ファッションには人の心を動かす力がある
今回ご紹介したエピソードからもわかる通り、単なる道具として暑さ寒さから身を守るだけでなく、ファッションには音楽や映画などと同じように、人の心を動かす力があります。
服飾評論家の出石尚三氏のブログには、こんな言葉が掲載されています。
着ることは、言葉なしに語ること。
着ることは、自分を表現すること。
着ることは、生きていること。
そう、着ることは知性であり、教養であり、文化なのです。少なくとも「おしゃれ」の一語で済むようなことではありません。
「山田耕史のファッションブログ」のテーマは「ファッションは生活であり、文化である」。
昨今のファッションのコンテンツはハウツー的な内容のものが多かったりしますが、当ブログでは微力ながらもファッションの文化的な面白さをお伝えしていければ、と思っています。