山田耕史のファッションブログ

ファッションは生活であり、文化である。

「メイドインジャパン」ってそんなに大事なんですか?





今朝の東洋経済の記事、

日本に「超一流アパレルブランド」がない理由 | 専門店・ブランド・消費財 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

そしてそれを取り上げた南充浩さんのブログに触発されて、

おとぎ話的な欧州工場礼賛では日本の製造加工場は生き残れない : 南充浩の繊維産業ブログ

今までずっと自分の中で「メイドインジャパン」に関してぼんやりと思っていたことを書いてみます。

・日本人学生がつくった服が「メイドインフランス」?


僕は大学生のときに川久保玲、フセインチャラヤン、マルタンマルジェラといったデザイナーに影響を受け、ファッションデザイナーになることを夢見て大学卒業後服飾専門学校に入学。留学科というコースに入り、3年間のカリキュラムのうち初年度は日本で、残りの2年はパリでデザイン、パターン(型紙作り)などを学びました。

パリの学校では授業のひとつに「スタージュ(研修)」というものがありました。生徒自らが研修先を探し、約1ヶ月の期間中はそこで研修を受けることが学校の単位になる、というシステムでした。

僕の研修先はとある日本人デザイナーのアトリエ。研修期間中は毎日アトリエに通い、パリコレクションに向けた作品づくりの手伝いをしていました。僕以外にも、同じ学校に通う日本人学生が何人かそこで研修を受けていました。

研修期間が終わるとアトリエ通いは終了し、普通の学校での授業に戻るのですが、次のパリコレクションのときにもその日本人デザイナーに手伝いを頼まれたので研修とは全く関係なく、ボランティアで手伝いをすることになりました。

研修のときはパターン作成やコレクションで使われる一点物の服の縫製を手伝っていのですが、次からはそれに加えコレクション終了後に世界各国からのバイヤーからオーダーされた服の製作、つまり​ ​実際に店頭に置かれる商品の縫製​ も担当しました。

僕が縫製した服にも当然ブランドのタグがつけられます。​ ​僕が驚いたのはそのブランドのタグには「メイドインフランス」の文字があった​ ことです。

もちろん間違いではありません。その服はフランスでつくられています。嘘、偽り、誇張は何一つありません。フランスの首都、パリでつくられた完全なるメイドインフランスです。

が、​つくっているのは一応専門的な学校に通っているとはいえ、プロフェッショナルとは言えない一学生である、僕なんです。

勿論当時の僕は手を抜くことなく仕事をしていたと思いますが、いくら頑張ったとしてもそこはまだまだ勉強中の学生の技術。今振り返って考えると、商品のクオリティは心配になります。

ちなみにそのアトリエで服をつくっていたのは僕らのような学生だけではありません。パリに住むプロフェッショナルの縫製職人もいました。

パリの縫製職人、というと以前ブログでもご紹介したエルメスの職人のような人を思い浮かべる人が多いでしょうが(山田耕史のファッションブログ:職人に質問もできる!大満足の「エルメスの手しごと展」に行ってきました。(画像大量))、



そのアトリエが雇っていた縫製職人たちは全員中東からの出稼ぎのおじさんたちでした。

別に出稼ぎだから駄目という訳では全くありません。そのおじさんたちのなかには以前誰もが知る老舗ラグジュアリーブランドで仕事をしたと話す人もおり、確かにその腕は相当なものでした。


・どこでつくったか、誰がつくったか



ですが、この経験を通し僕は​ ​「メイドイン○○ってあんまり重視すべきなことではないかも」と思うようになりました。

今回ご紹介した、僕のような半ば素人がつくっている例はレアかもしれませんが、「メイドインフランス」のタグが付いているからといって、そのタグからなんとなくイメージされるような「熟練したフランス人職人がつくっている」なんて保証は全くないのです。

南さんのブログにもあるように、組み立てを外国で行って最終過程だけがフランスで行われた「メイドインフランス」の商品もあります。

 
最初から最後までフランスの工場で職人によってつくられたとしても、その職人がド新人かもしれません。ベテランの職人でも40度の発熱でフラフラしながらつくった商品かもしれません。

一口に「メイドインフランス」の商品といっても、様々なクオリティの商品があります​
 

・「メイドイン○○」という情報が生むもの

 

こういった現実を踏まえたうえで考えたいのは、​ ​「メイドイン○○」という情報ってそこまで大事なのかということです。

僕は「メイドイン○○」という情報は商品の良し悪しの判断材料を持たない消費者が
「この商品はメイドイン○○だから安心だ」という気休め程度の目安に過ぎないと思います。

服に関して言えば、僕はパターンや縫製を専門的に学んでいるので服の良し悪しを見る目はある程度養われていると思っています。ですが、これは僕のように専門学校に行って数年勉強しなければ養われない、というようなものではないと思います。

例えばシャツなら襟や袖口など、技術に差が出る難しい部分をチェックすればある程度その商品の良し悪しはわかります。

一部雑誌などで服の品質調査的な特集はたまに目にしますが、そういった情報がある程度のボリュームでまとめられているところは見当たりません。(もしあったら教えてください)

そういった情報が整っていれば一般消費者でも「メイドイン○○」というあやふやな情報に頼らずに商品選びができるようになると思います。

・2030年でも「メイドインジャパン」議論は続いているのか



1年ちょっと前の2016年1月にこんな記事を書きました。

山田耕史のファッションブログ:2030年のファッション業界を予想してみた。

 

割と気に入っている記事なんですが、あんまりPVは伸びませんでした笑。

この記事では最初に縫製ロボットを取り上げており、当時の僕は縫製ロボットがファストファッションブランドで用いられることを想定してこんなことを書きました。

今までは人の手で行っていた縫製がロボット化される事で品質も安定します。特に今のファストファッションブランドでは一点一点縫製品質のばらつきが目立ちますが、その品質が格段にアップするのは間違いないでしょう。



ですが、記事を書いた4ヶ月後にこんなニュースがありました。

アディダス、靴の「ロボット工場」 を公開 17年に本格稼働 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

すでにアディダスは​ ​スニーカーのロボット工場を発表しています。こちらのニュースによるとそのロボット工場をアメリカ、日本にも設置する計画があるそうです。


このロボット化の流れは当然スニーカーだけでなく、服にも押し寄せています。例えば2016年9月のこちら記事。

ミシンのJUKI、スマート縫製工場で作業員6割減へ  :日本経済新聞

ミシンの設定作業工数をデジタル化で削減したり、シャツのボタンづけを自動化したり、搬送作業をロボットが担うという「スマート縫製工場」では


ポロシャツ縫製ラインに通常13人の作業員が必要だったところ、作業員を4人まで減らせる

ようになるそうです。

現時点ではまだまだ人間が必要なようですが、​ 13人から4人に減った必要人員は今後の技術革新で減り続け、いつかはゼロになる​のではないでしょうか。

もちろんロボットが再現できない、人間ならではの手作業が必要な商品もあるでしょう。

ですが、そういった商品は今でいうところのエルメスなどのラグジュアリーブランドや、気仙沼ニットのような高価格商品か、中低価格でも一部の趣味人が求める(例えばジーンズの色落ちへの強いこだわりなど)嗜好品に近い商品だけになるでしょう。

そうなると、「メイドイン○○(国名)」ではなく、より作り手にフォーカスした「メイドバイ○○(人名)」という情報が重要になってくると思います。


最後までご覧いただきありがとうございました!